■鳥彦日記■




「本当に行くのか」
科戸王は眉をしかめてつぶやいた。
こわもてのためよく誤解される科戸だが、心から自分を心配してくれている
のだと鳥彦は知っていた。
「行くよ。もう決めたんだ」
鳥彦は笑った。
「そんな死にそうな顔をしないでよ」
「死ぬのは鳥彦、おまえだろう」
科戸は苦々しげにため息をついた。
「輝の宮に入りこむだなんて、死ににいくようなものだ」
「おれたちは闇の氏族だろう。死ぬことなんてこわくない。安心してよ、
むだ死になんてしないからさ」
鳥彦は言ったが、科戸は何も言わなかった。
しばらくの沈黙の後、ようやく科戸は口を開いた。
「おまえがそうしたいならもう何もいわん。したいようにしろ」
「ごめん。でも行きたいんだ」
鳥彦は科戸に小さくわびると、踵を返した。
そして、輝の宮へと向かった。

輝の宮へ行くことはみなに反対された。
一人で敵の本拠地に乗り込むなど無茶だと。

だが、鳥彦は行かないわけにはいかなかったのだ。

水の乙女。
光にあこがれる闇の巫女姫。

いつも月代王に恋をして、いつも絶望して死んでいく、乙女。

狭也が月代王のもとへ行くと聞いたときも驚かなかった。
またかと。
水の乙女はいつもそうだと。

だけど。
なぜだか狭也は違うと鳥彦は感じたのだ。
言葉では言えない、なにか。
側にいたい、助けてやりたい。
狭也には死んでほしくない。

そこまで考えて鳥彦は小さく笑った。
自分が死ぬことはまったくかまわないのに、狭也に死んでほしくないと思う
自分がおかしかった。

水の乙女はうまれかわる。
狭也が死ねば新たな水の乙女が生まれる、それだけ。
なのに。
なぜだか狭也には死んでほしくなかった。


鳥彦は首尾よく輝の宮に童として入り込むと、狭也のもとへ向かった。

鳥彦が見つけた狭也は、死の影にとりつかれているように見えた。

(やっぱり狭也にはおれがついていないとだめなんだ)

鳥彦は狭也に声をかけた。
「新しくつかわされました童でございます。ご用をはたしにまいりました」
そして、とびきりの笑顔を狭也に向けた。

(終)



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黎さんに書くきっかけをいただきました、鳥彦日記です。
ひさびさに書いたので、いつもにもまして駄文ですみません(汗)

これで終わりではなく、これからも鳥彦ものをもっといろいろ書いて
いきたいなと思います。

大人な鳥彦も書いてみたいです。
前世の鳥彦とかvv
そして、科戸ものも書けたらいいなと。


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