もともと平安設定でなかったので、時代考証一切無視ですが、それでも許せる
という心の広い方はどうぞ〜。


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さらしな日記・3



勢いで飛び出してしまったものの、沙良に行くあてはなかった。
京に戻ろうにも、ここがどこなのかもわからない。
何度も後を振り返ってみたが、やはり鷹男が追ってくる様子はない。

高道の屋敷が見えなくなるところまで歩いてから、沙良は道端にしゃがみこみ、
途方にくれた。

(これからどうしよう・・・)

冷静に考えるなら、高道の屋敷に戻るのが一番だった。
水も食べ物もなく、歩いて京まで戻れるとはとうてい考えられない。

しかし、鷹男との一件が沙良をためらわせていた。
兄のためなら沙良との約束を破ることをためらわない鷹男。
鷹男と顔を合わせたくはなかった。

沙良が考えあぐねていると、急いでいるらしい馬の蹄の音がきこえてきた。
道を譲ろうと、沙良は道端の草むらに入った。
だが、馬上の人は沙良の横で勢いよく手綱を引き、馬が前足で空をかいて止まった。

「沙良どのか?」
馬から飛び降りて駆け寄ってきたのは高道だった。
普段の余裕のある笑顔とは違う、真剣な表情だ。

高道は沙良の腕をとって引き寄せ、沙良を抱きしめた。
高道の体は熱く、少し汗ばんでいて、急いで沙良を追いかけてきたのだとわかった。

「よかった。ご無事か」
高道は心底ほっとしたように微笑んだ。
「このあたりには盗賊もかどわかしも出るというのに。姫が一人で飛び出して行ったと
鷹男からきいたときには心底ぞっとした。本当に無事でよかった」
そこまで言うと、高道はあわてたように沙良から体を離した。
「申し訳ない、つい勢い余った」

高道には事情を話しておくべきだと思い、沙良は重い口を開いた。
「高道どの、わたくしは・・・」
沙良が口ごもると、高道は困ったように笑った。
「鷹男から話はききました。あいつはばかなんです。昔からおれに遠慮ばかりして。
どうか許してやっていただけませんか」
「わたくしは・・・」
沙良の頭の中を鷹男の顔がよぎった。
沙良を手放す鷹男の顔に迷いはなかった。
彼にとって大切なのは高道なのであり、沙良ではない。
そんな鷹男に元通りの気持ちを抱くのは、もう無理であるように思われた。

「わたくしは、もう鷹男に会いたくないのです」
沙良が言うと、高道は困惑したようだった。
「沙良どのは鷹男をお好きだったのでは?」
「ええ、そう思っていました」
沙良は静かに言った。
「けれど、きっと思い違いをしていたのでしょう」
「しかし」
言い募ろうとする高道を、沙良はさえぎった。
「わたしを妻にしろと、あなたが鷹男に言った。だから鷹男は従った。それだけです」
「あのときは・・・おれが姫のことをいらないと言って、鷹男に押し付けたのでしたね」

高道は沙良の手をとり、沙良の目を見つめた。
「鷹男が姫君をさらってきたことに動揺していたとはいえ、いらないなどと、姫に対して
本当に失礼なことを言ってしまった。申し訳ない」
高道は苦しそうに目を閉じた。

「姫はおれのことをお嫌いかとは思いますが、どうかおれの屋敷にお戻り
いただけませんか?」

沙良はうつむいた。
高道を嫌いだと思ってはいなかった。
むしろ、京で思い描いていた卑しい受領とは全く違うと、好感を抱いているくらいだ。

「わたくしは高道どのを嫌っているわけではありません」
沙良が言うと、高道は勢いよく顔を上げた。
「本当ですか」
「ええ」
沙良がうなずくと、高道は沙良が見たことがないほどうれしそうに微笑んだ。
「よかった。姫には嫌われているとばかり思っていました。ああ、よかった」
高道があまりにうれしそうなので、沙良は驚いた。

「わたくしに嫌われていないということがそんなによいことですか」
「ええ、もちろんです。おれはあなたが好きですから」
臆面なくそう言われて、沙良の方が赤くなってしまった。

「だから、姫に屋敷に戻ってきてほしいのです。保身のためだけでなく、
心からそう思っています。ですから、どうかお戻りいただけませんか」
そこまで言うと、高道は笑って言った。
「妻になれなどと無理強いはいたしません。姫がいてくれるだけでいい。
もちろん、妻になってくださるのなら大歓迎ですが」

そういうと、高道は沙良を抱き上げ、再度尋ねた。
「姫、屋敷へお戻りいただけませんか」
抱き上げて今にも連れて帰ろうとしているくせにそんなことを言うのがおかしくて、
沙良は思わずふきだした。

高道という人物は、自信満々なくせに、他人の意思を確認しようとする気持ちは
あるところがおかしい。
彼があまり高慢に見えず、下の者からも好かれているのはこういうところなの
かもしれないと沙良は思った。

「ええ。戻ります」
沙良が答えると、高道は顔を輝かせた。
「では帰りましょう」
そして、沙良は高道の引く馬に乗って再び屋敷へと戻ったのだった。


屋敷へ戻った沙良は、鷹男の顔を見たくないとは言ったものの、やはりもう一度
きちんと話し合いたいと思い、鷹男の姿を探した。
だが、鷹男は沙良の姿を見ると、沙良が声をかける前にいなくなってしまうのだ。

(避けられている・・・)
そう気付いて、沙良は愕然とした。

鷹男はもう沙良に関わりたくないのだ。
大好きな兄の高道と、女のことでごたごたしたくないのだ。
そう思うと、執拗に鷹男を追うのもためらわれた。

(続く)









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2006/05/29 一部修正


突発オリジナルの続きです。

駄文・時代考証無視・ベタな展開の三重苦で申し訳ありません(汗)

なんか、もう高道さんでいいじゃん!みたいな気持ちになってきました(笑)

鷹男も、設定ではいい男のはずなんですが、おかしいな・・・。
でも、主には絶対服従という設定なので、これでいいのかも。

次は鷹男の心境を書いてみようと思います。
顔にはあまり出さないですが、苦しんでいるはずです、彼も。

そして、高道さんは純粋な好意と保身と両方を考えている人です。
もちろん、保身が全てじゃなくて、真剣に沙良が好きだとは思いますが、
いろいろ考えられる大人なんだと思います。
きれいな部分だけじゃないのかもですが。

沙良は人に好かれることに慣れていないから、いろいろ迷いそうですね。
どうなるのか・・・。

ということで、こんな駄文中の駄文を読んでくださった方、
ありがとうございました〜!