一発書きで1時間で書いた妄想小説です。
登場人物の名前は全部3秒で決めました(笑)

ばばっと書いたので、あらすじみたいな文章ですみません(><)

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さらしな日記





深夜、妙な物音で、沙良は目を覚ました。
体を起こして、あたりを見回そうとしたとき、いきなり後ろから大きな手で口をふさがれた。一瞬、沙良の頭はまっしろになった。
「静かに。騒ぐと命の保証はできない」
若い男の声だ。
男は沙良の耳元で低くそうささやくと、沙良の様子をうかがった。
ようやく事情が飲み込めてきた沙良は、ごくりとつばをのみこんだ。
賊が押し入ったのだ。
家のものはどうしたのだろう、殺されてしまったのだろうか。

男は少し手の力をゆるめた。
「右大臣の一の姫、かぐやどのとはあなたのことか」
この男は姉さまをねらってきたのだ。
沙良はこんなときだというのに、少しおかしくなった。
そして、こくりとうなずいた。

沙良の姉のかぐやは都一の美女と名高い姫君だ。
帝の后になるといわれている。
だが、それだけ評判の姫だけに、無理やり手に入れようと考える不埒なやからも多い。
そこで、三の姫である沙良が、毎晩、かぐやの寝所でかぐやのふりをしていたわけだった。

もっとも、父君がたくさんつけてくれた警護がいることもあり、今まで危ない目にあったことはなかったのだが、
どこかに内通者でもいたのかもしれない。

男は沙良がかぐやだと信じたようだった。

「かぐやどの、失礼する」
そう言うと、沙良の体を軽々と抱きかかえた。
「大声は出さないでください。誰かにみつかれば、わたしはその者を殺すしかない。家の者が死ぬのはおいやでしょう」
そう言うが早いが、男は部屋から飛び出した。
軽く跳躍して庭に飛び降りると、静かに走りだし、気づけば沙良は屋敷の外にいた。
屋敷から少し離れた角に、馬が一頭つないであった。
男は、さっそく馬をつないでいた綱を解くと、沙良を馬の上に押し上げた。
月明かりでようやく男の顔が少し見えた。
着物は粗末なものだが、顔立ちはそれほど卑しげではない。
少なくとも、沙良の思い描いていた賊とはまったく異なっていた。
男は切れ長の瞳で沙良に一瞥をくれた。
そして、馬に乗りこみ、沙良の後ろにおさまった。
「こんな下賎な者にさわるのはお嫌でしょうが、馬から落ちて首の骨を折って死にたくなければわたしにしがみついて
いてください。もっとも、賊にさらわれるくらいなら死んだ方がましとお思いかもしれないが」

死んだほうがましだとは思わなかった。
正直、沙良はもうかぐやのふりをして生活するのに疲れていた。
だから、それほど抵抗せずについてきてしまったのだ。
かぐやだと確認してさらったからには、追いはぎのたぐいではないだろう。
しかし、いつかは沙良がかぐやでないことがばれるにきまっている。
そのとき、自分はどうなるのだろう。
殺されるのだろうか。

しかし、どのみち父の政治の手駒にすぎない我が身、どうなってもいいような気もしていた。


男の馬は飛ぶように走った。
牛車にしか乗ったことのない沙良には信じられない速さだった。
目が回りそうになって、沙良は思わず男の着物にすがりついた。
男が笑ったのが体の震えでわかった。
だが、なぜだか不快ではなかった。


    *


ずいぶん、走ったようだった。
男は、小さな泉の前で馬をとめた。

男は竹筒に水を汲むと、沙良に差し出した。
のどがからからだった沙良は素直にそれを受けとった。
水は冷たくておいしかった。
沙良が水を飲むと、男は少しほっとしているようにみえた。


「手荒なまねをして申し訳ありません。でも、命の危険がないことだけはこのわたしが保障します」
男は真剣な顔でそういった。
沙良は静かに尋ねた。
「わたくしをさらってどうするつもりなのです。命の保証をするかわりに、あなたの妻になれと、そういうこと
なのですか?」
「い、いえ」
男は顔を赤らめた。
「わたくしのようなものが姫を妻にできるなどとは考えておりません。姫には、わたしの主の北の方になって
いただきたいのです」
男は沙良を見ていった。
「わたしは鷹男と申します。わたしの主は受領をしております。小さな国の受領ではありますが、かぐやどのに
思いを寄せておられ、一生大事にすると申しております」
「受領・・・」
頭がくらくらした。
脂ぎった卑しげな男が頭に浮かんだ。
だが、受領ふぜいなら姉のかぐやに会ったことはないにちがいない。
しばらくの間、だましとおせるかもしれない。

「受領ふぜいとお思いでしょうが、わが主は若く、見目良く、尊敬できるお方です。きっと姫にも心を開いて
いただけると、わたしは信じております」
そう言って鷹男は微笑んだ。
よほど自分の主が好きなようだった。

自分をさらったこの男を、沙良はなぜか憎めなかった。
馬から降りるために鷹男が沙良の手をとったとき、沙良は奇妙な感覚に陥ったのだ。
なんだか以前から知っている人のような、そんな気がした。

鷹男は再び沙良を馬に乗せた。
「明け方に着きます。もうしばらくご辛抱ください」
鷹男はそういうと、再び馬を走らせた。


     *

着いた館は沙良が想像していたよりはよほど大きく手入れが行き届いているようだった。
朝の光の中で見ても、少なくとも、都の貧乏貴族の屋敷よりはずっと立派だった。

鷹男は沙良を馬から下ろすと、沙良の手をとった。
「わが主のもとへご案内します」
「ちょ、ちょっと待って」
沙良はあわてた。
今の沙良の格好は寝巻きなうえ、さらわれたために髪もぼさぼさだった。
こんな状態で「都一の美姫かぐやです」といったところでだれも信じないだろう。
沙良が身なりを整えたいというと、鷹男はすぐに女房たちを呼んでくれた。

髪をすき、装束を着せてもらうと、ひと心地ついた。
そこへ、鷹男がやってきた。
鷹男は、沙良をさらったときの粗末な着物ではなく、こぎれいな水干を着ていた。
鷹男は沙良を見ると目を見開いた。
そして、微笑んだ。
「とてもおきれいです。さすが都一と名高いかぐやどのです。正直申しまして、わたしは
うわさを信じていなかったのです。ああいう噂はたいていその姫の親が流したりするもの
ですから。ですが、かぐやどのは本当におきれいだったので、びっくりしましたよ」

沙良は複雑な気持ちで鷹男の賛辞を聞いていた。
姉のかぐやは自分などよりずっと美しいのだから。

沙良の気持ちを知らず、鷹男は沙良の足元にひれ伏した。
「いきなりさらってきてしまって申し訳ありませんでした。まずはわが主にお会いください。
お叱りはそのあとにいくらでも受けます」
沙良は鷹男を見た。
日の元で見ると、鷹男はきちんとした若者に見えた。
年のころは18、9だろうか。
敏捷そうな体つきをしており、日に焼けている。
切れ長の瞳に、形の良い鼻、口角の上がった口元。
貴族の屋敷に押し入る賊にはとても見えない。
おそらく、主のためならどんなことでもやってのける忠義者なのだろう。
さらわれる方にすればいい迷惑だが。

そこへ、すのこ縁の方から、どかどかとあまり上品でない足音がした。
「主です」
鷹男が言った。

ばさっと御簾をはねのけて入ってきたのは、背の高い細身の男だった。
「高道さま、かぐやどのをお連れしました」
「おまえ、まさか・・・本当にやったのか」
高道と呼ばれたその男は、形のよい眉をひそめ、あきれたように言った。
鷹男はあわてたように言った。
「高道さまが、『わが妻はかぐや姫以外考えられない』とおっしゃったのではありませんか」
「それはそうだが・・・」
高道は頭を振った。
そして、沙良を振り返った。
「あなたには迷惑をかけたな。しかし、あなたはかぐや姫ではないだろう。おれはこれでも
かぐや姫の姿をちらりと垣間見たことがあるのだ」
沙良は驚いたが、すぐにあきらめてうなずいた。
「ええ、わたくしはかぐやの妹の沙良と申します」
高道はうなずいた。
「そうか。しかし、申し訳ないが、人違いだからといってあなたを帰すわけにはいかない。
あなたを帰せば、遠からずおれの部下があなたをさらったことがばれて、おれは受領の役目を
失うだろう。申し訳ないが、あなたにはここに留まっていただく」

そして、高道は、呆然としている沙良を無視して、鷹男に言った。
「沙良姫にはおまえの妻になっていただくといい。あまりに女っ気がないのでこれでも心配していたんだ」
高道の言葉に、鷹男は仰天したようだった。
「どうしてです。人違いだったとは言え、これほど美しい姫君なのですよ。高道さまが妻になさればいい」
高道は首を横に振り、きっぱりと言った。
「おれはいらん」

あからさまな拒絶の言葉に、沙良は少なからず傷ついた。
やはり、自分は姉に比べて価値のない存在なのだ。

そんな沙良の気持ちにはお構いなしで、高道はにっこり笑った。
「こいつはおれの部下ですが、腹違いの弟です。まあ、仲良くしてやってください」
そういうと、高道は鷹男を沙良の横に押しやった。


      *

「こんなことになって、申し訳ありません」
鷹男は本当に申し訳なさそうに言った。

「もういいわ。予想外すぎてなんだかおかしくなってきてしまったもの」
沙良が笑うと、鷹男は真剣な目で沙良を見た。
「沙良姫はおれが責任をもって都へお返しします。それまで、しばらくの間、形だけおれと夫婦のふりを
していただかねばなりません。変なまねはけっしていたしませんので、安心してください」
沙良に少し気を許したのか、鷹男は自分のことを「おれ」と言っていた。
沙良は笑った。
「ええ、信用するわ。あなたはわたしをさらった人だけれど、なんだか信用できそうに見えるもの。
それに比べて、あの高道というひと、あの人は好きになれないわ」
沙良が言うと、鷹男は苦笑した。
「高道さまは本当はすばらしい方なのですよ。ただ、ちょっと変わったところもおありですが」

沙良はため息をついた。
「あなただって災難でしょうに」
「災難、ですか?」
「そうよ。形だけとは言え、わたしなんかがあなたの妻になってしまうのよ」

鷹男は目を細めて微笑んだ。
「おれにとっては災難なんかではないですよ。姫のような美しい方と、形だけとはいえ夫婦になれるのですから」
「でも、あなたにも恋人がいるのではないの?きっと誤解されてしまうわよ」
「恋人なんていません」
鷹男は言った。
彼ほど見目がよければ言い寄る女もいるだろうにと思ったが、沙良は黙っていた。
「姫にとっては苦痛でしかないと思いますが、しばらくご辛抱ください」
「わたくし、いやではないわ。だって、あなたはいい人みたいだもの」
「ありがとうございます」
そう言うと、鷹男はうれしそうに微笑んだ。

   *

田舎暮らしは思ったよりも自由で楽しいものだった。
高道は裕福な受領だったので、都にいたときほどのぜいたくはできないものの、なの不自由なく暮らすことが
できた。
そして、鷹男は穏やかで優しく、いつも沙良を気遣ってくれる。

夕暮れ時に、沙良が庭に出ていたりすると
「沙良どの、これをどうぞ」
と鷹男が上着をかけてくれる。

高道も、着物から調度品から食事まで、なにくれとなく沙良を気遣ってくれた。

沙良は、このままここで暮らすのもよいかもしれないと思い始めた。

だが、最近気になるのが高道の視線だった。
ふと気づくと、高道がこちらを見ていることがあった。
(優しくしてくださるけれど、わたくしが逃げないように見張っているのだわ)
そう思うと、高道の視線を意識して緊張してしまう沙良だった。


     *



鷹男が高熱を出して倒れた。
沙良がさらわれてきてから5日が経っていた。

症状が、都のはやり病に似ていた。
沙良もふた月ほど前にかかったのだ。
おそらく、鷹男は、沙良をさらいにきたときに都で感染したのに違いなかった。
この病は、一度かかると二度とかからないといわれていた。

女房たちがおびえてしまって近寄らないので、沙良が一人で看病をすることになった。
ぬらした布で頭をひやし、かゆを食べさせてやる。
「沙良どのにこんなことをさせて、もうしわけありません・・・」
鷹男は、高熱の合間に何度も沙良にあやまった。

2日ほどして、少し鷹男の症状が快方に向かったと思いきや、今度は高道が倒れた。
鷹男と一番頻繁に話をしていたため感染したのだろう。

他に看病できる者がいないため、沙良が高道の看病もすることになった。

高道の部屋へ行くと、高道はぐったりと横になっていた。
沙良は高道の額に手をあてながら尋ねた。
「どんな具合です?」
「ひどい具合だ」
高道はそう言って苦しげな息をしながら笑った。
「だが、沙良どのが側に来てくれるなら病もよい」
「ご冗談を」
沙良が軽く受け流すと、高道は真剣な顔で言った。
「冗談ではない」
そして、少し眉をしかめた。
見目の良い人はどんな表情をしても見目のよいものだと沙良は思った。
病に倒れているというのに、高道には人をひきつける魅力があった。
腹違いの兄弟というだけあって、高道と鷹男の顔立ちには多少似通ったところがあるのだが、
どちらかといえば優しげな顔の鷹男に比べ、高道は凛々しい顔だちをしていた。

「おれは心底後悔しているのですよ」
ふいに、高道が言った。
「なんのことです?」
「沙良どののことですよ」
「わたくしの?」

沙良が困惑すると、高道は苦笑した。
「鷹男にやってしまうのではなかったと。おれの妻になっていただくのだったと、後悔しているのです」
「ご自分でわたくしのことをいらないとおっしゃったのではないですか」
沙良が非難をこめて言うと、高道はうなずいた。
「おれはばかだったのですよ。まさかその後、たった数日で姫から目が離せなくなってしまうとは、
姫を慕うようになるとは、あのときは夢にも思わなかった」
「わたくしなどを、どうして・・・」
沙良が尋ねると、高道は高熱で少しやつれた顔に、うっすらと笑みを浮かべた。
「野の花を摘んで微笑むあなたを見てから、おれに微笑みかけてほしいと、気が狂いそうなほど
願うようになったのですよ。自分でもおかしいと思うほどに」
そして、沙良を見た。
「かぐや姫を妻にしたいといったのは、うそなのですよ。まわりがあまりに妻をめとれとうるさいので、
妻にするならかぐや姫がいいといったのです。とても無理なことだとわかっていましたから。だから、
あなたのこともいらないといってしまった。それを後でどれほど後悔したことか」

沙良が沈黙していると、高道は笑った。
「困らせてしまって申し訳ない。病人のたわごとと思って聞き流してやってください」
そして、上掛けをかぶって沙良に背を向けた。
「おれは大丈夫なので、鷹男を看てやってください。あなたは鷹男の妻なのだから」

ずいぶん苦しそうなのに強がってそんなことを言う高道を見ているうちに、沙良はなんだか、高道が
あわれになった。
いつも強気の高道の弱さを垣間見た思いだった。

この人はずっとこうして強がって生きてきたのかもしれないと、沙良は思った。
沙良は高道の体を仰向けに戻した。
高道が驚いたように瞬いた。
沙良は高道の額に手を伸ばし、ぬれた布をのせた。
(続く)



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2006/05/29 一部修正



すみません、右大臣とか受領とか、超適当です(汗)
しかも、本当は別に平安ものじゃなく、西洋もののはずだったのですが、名前が思いつかなくて、
思い切って平安時代に・・・。

もともとは受領じゃなくて、盗賊だったんです。
高道が首領で、鷹男が副首領で。
ルックスも、高道はワイルド系、鷹男はクール系のはずだったのに、なにがなんだかなことに・・・。

なにはともあれ、妄想が形になりましたー!
でも、鷹男のキャラが・・・もっとクールで偉そうな感じだったはずなんですが・・・。
鷹男って名前にしたのが間違いだったかも・・・身分低そうだし・・・。

ということで、ぴっころの妄想でした。

というか、やっぱ「高貴な姫君がいい男にさらわれる」というネタは最高だと思います☆