ソフィーの日記



「ハウル」
あたしは横で寝ているハウルの体を揺さぶった。
しかし、ハウルは目覚めない。
「ねえ、ハウルったら」
今度はさっきよりももっと激しくゆさぶった。
それでも、ハウルは目覚めない。
あたしはついにしびれを切らせた。
「ハーウールー!起きて起きて起きて!」
叫びながら、ハウルの襟首をつかみ上げ、彼のほおに軽い往復びんたをくらわせた。
「痛いなあ、何するんだいソフィー」

あたしはやっと目覚めたハウルにまくしたてた。
「寝る前に話をしてくれる約束でしょう!それなのに、あんたったら、あたしがシャワーに行っている間に寝てしまうんだもの」
そう言っている間にも、ハウルはまた寝そうになっている。
あたしはまた彼を揺さぶった。
「ねえ、お・は・な・し」

ハウルはやれやれというように頭を振った。
「わかったよ、それで今日は何が聞きたいんだい、わがままな子猫ちゃん」
あたしは即答した。
「あなたの昔のこと」
「む、昔のこと?」
ハウルが少し慌てる。
あたしは嫌味なほどにっこりと笑ってあげた。
「勘違いしないでよ。あんたの女遍歴を知りたいわけじゃないの。そうじゃなくて」
そして、今度は優しく微笑んだ。
「向こうの世界に住んでいたときのことを教えて。何でもいいから」
「本当に何でもいいのかい?」
「ええ」
「なんかあったかねえ」
ハウルはさんざん首をひねった後でぽつりと言った。
「そういえば、昔、家の近くに大好きなお菓子屋さんがあった。優しいおばさんがいたよ」
「それで?」
「毎日学校帰りにはそこでアイスキャンディーを買っていた」
「ふうん。それで?」
「終わりだよ」
「えーーーーー?」
あたしは叫んだ。
「それだけ?」
「うん」
ハウルは飄々としてうなずく。
「もう少しなんかないの?」
「なんかって言われても・・・。ああ、そういえば、毎日のように姉に怒られていたよ。無駄遣いするなって。小遣いを値下げされた。・・・さて、これでもう寝てもいいかい?」
「・・・いいわ」
普段はいくつもいくつも話をねだるのだけど、今日はおとなしくひとつであきらめることにした。
ハウルが自分からお姉さんの話をするのはめずらしいのだ。

「おやすみ、ソフィー、大好きだよ」
ハウルはあたしにキスをして、あっという間に眠りについた。
世界一寝つきのいい世界一の魔法使い。
そう思って少し笑ってから、あたしはハウルの腕枕に頭をあずけ、つぶやいた。
「おやすみ、ハウル、大好きよ」
そして、ハウルに優しくキスをした。
ハウルは寝ぼけながら、
「うん、ぼくも・・・」
と言った。なんだかやけにうれしかった。




ハウルの日記

今日、とても眠かったので、ソフィーの入浴中にこっそり寝たら、たたき起こされた。
やはりなにか話をしないことには寝かせてもらえないらしい。
話をねだる彼女はとてもかわいくて大好きなんだけど、今日はとにかく眠かったのでまいった。
お菓子屋の話をしたら、寝てもいいと許可が出た。
話ひとつで寝てもいいなんてめずらしいことだ。
とにかくよかった!





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


これは、以前「Flower Ocean」のみらさんに捧げさせていただいたハウル・ソフィー日記です。
当時は「よりどり日記」のコンテンツがありませんでしたので、置いていませんでしたが、なんと☆かまやんさんに漫画化☆していただけることになりまして、それを機にここに置いてみることにしました♪

また機会があればハウル・ソフィー日記を書きたいと思います♪
今一番興味があるのは「料理をするハウル」です。どんな感じなのでしょう、気になります(笑)