(注)これは私が荻原先生のキャラクターをお借りして書いた完全な妄想です。
樹上のゆりかごともパラレル(別世界)です。
二次創作の苦手な方はお読みにならないことをおすすめします。







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ハールーンの帰還B



目覚まし時計の音で、おれは目を開けた。
朝だ。
一瞬ぼんやりとした後、すぐに思い出す。

(そうだ、今日から教育実習だった)

あわてて起き上がろうとしたおれの頭を、何かのイメージがかすめる。

海。船。つぼ。
そして、女の子。

そう、女の子だ。
制服を着ていた。
そのわりに、舞台はアラビアンナイトなイメージで。
そして、おれは王子だった。

「王子ってか」
おれはあまりにおかしくて思わずふきだした。

おれの家はそんなにたいした家じゃない。
特徴といえば、親父もおふくろもじいさんもみんな教師ということくらいだ。
そのせいで、おれも教師になれとしつこく言われているのだが。

正直、教師になりたいわけじゃない。
おれには夢がある。
でも、両親は「そんな不安定な仕事より教師をやれ」と言ってひかない。


王子ではないものの、夢の中の王子の状況もおれと少し似ていた気もする。
まあ、夢はその人の脳から生まれるのだから当然といえば当然かもしれない。

だが。
それならあの女の子はなんだ?
中学の同級生?
いや、あんな女子はいなかったはずだ。

ぶつぶつ言いながらも、なんだかいつも一生懸命で。
おれと一緒にいた。
あれはだれだ?


ジリリリリリリ。
予備にかけておいた目覚ましまで鳴り出して、おれは思考を止めた。
夢のことを考えている場合ではなかったことを思い出し、おれは洗面所へ
向かった。



ひさびさの母校はやはり懐かしかった。
体育祭や合唱コンクールをはじめ、やたら行事がたくさんある学校だった。
当時はどうしてこんなにと思ったものだが、今となってはなつかしい。

今年教育実習を受ける人間はたいてい同級生なので、見知った顔にも
たくさん会った。


始業式ではおきまりの実習生のあいさつがあった。
興味津々に見ているやつ、どうでもよさそうなやつ、だいたい生徒は
この2種類だ。
実習生たちがあいさつを済ませると、始業式は終わった。
担当教諭からの注意事項を聞いて、自分の担当クラスへ行く。

こんな流れを、おれは適当にこなしていた。
そこそこそつなくやればいいだろうと、そのぐらいの意識で。

だが、案内された教室に一歩入るなり、おれはぎくっとした。

窓際の、一番前の女子。
うつむいて本を読んでいる。

(あれはだれだ?)

動揺を隠して、余裕の笑みを浮かべて挨拶する。
ポーカーフェイスが得意で助かったと思った。
そうでなかったら大醜態をさらしそうだった。

教諭に窓際に座るように言われ、おれはその女生徒の前に座った。

教諭の授業がはじまる。

それを聞きながら、おれの視線はどうしてもその女生徒に向かっていた。

確かに知っている気がした。

(だれなんだ?)

おれの視線に気づいたのか、少女がちらりと顔を上げた。

その顔を見て、おれは心底驚いた。
その少女の顔は、夢の中のあの女の子と同じだった。
だが、夢の中よりは少し大人びて、髪も伸びていた。

少女の目がおれをとらえた。
その瞬間、周囲の風景が変わる。



おれは荒波の只中にいた。
今にも波にさらわれそうだ。
夢の少女もそばにいた。
ずぶぬれになって、必死でおれを助けようとしながら、泣きそうな声で叫んでいる。
「あたしのせいなの?ねえ、あたしのせいなの?」
「ちがうだろ」
おれは答える。当然のように。
そして、そんな状況だというのにほほえみさえして、言った。
「あんたはおれの幸運だろう」


そう、ジャニはおれの幸運なんだ・・・。



そこで、おれは白昼夢から覚めた。




(やばい、うとうとしてしまったのか)
幸い、教諭は気づいていないようでほっとした。

授業後、教室の外へ出たおれをジャニが・・・少女が追ってきた。
少女はただ、尋ねた。
「質問なんですが」

少女は直球を投げ込んだ。

「ハールーン=アッラシードって知ってますか?」

ハールーン=アッラシード。
世界史では常識の域に入る歴史上の人物。

だが、この質問はそういう意味ではなさそうだった。

「ハールーン」
彼女がその名前を口にした瞬間、おれはなつかしさでいっぱいになった。

ハールーン。
それは夢の中でのおれの名前。
だがあれは本当に夢だったのか?

混乱しながら、おれはポーカーフェイスの笑顔でうなずいた。
「ああ、よく知っているよ」
と・・・。



Cへ続く