(注)これは私が荻原先生のキャラクターをお借りして書いた完全な妄想です。
樹上のゆりかごともパラレル(別世界)です。
二次創作の苦手な方はお読みにならないことをおすすめします。







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ハールーンの帰還A


9月1日。
今日から新学期。

高2の2学期って、高校時代で一番つまらない時期だと思う。

部活は引退。
勉強は難しくなる。
志望校だなんだのと、大学受験が近づいてくる気配はするし。

しかも。
今日からは教育実習生がくるらしい。

始業式で紹介されていたけれど、興味がなくて聞いていなかった。
とりあえず、男、それは確か。

あたしは教育実習生が苦手だ。
せっかく先生が作り上げてきた授業のペースが壊れる。
授業が遅れる。
教育実習生から習った部分だけ知識が薄くなる。

だから、うんざりしていた。
また今年もか、と。


1限目は世界史。
あたしの好きな科目。
でも、入ってきた先生を見たとたん、がっかりした。

先生はドアを開けながら、やたらと後ろを気にしていたのだ。

(世界史の教育実習生なの?もう最悪・・・)

大好きな世界史の授業を教育実習生に乱されることにがっかりした。

すっかりあきらめて、教科書に目を落とす。

が。

「きゃー!」
突如としてあがる黄色い歓声。
あたしはまたうんざりした。

おおかた、実習生がジャニーズ系だとか、そういう理由。
だからってなんでそんな奇声をあげるかな。

だけど、そんなあたしも、その教育実習生の声を聞いたとたん、金縛りにあった
ように固まってしまった。

「教育実習生の海野春樹です。2週間という短い期間ですが、どうぞよろしく!」



(・・・ハールーン)

まさかと思った。
怖くて顔があげられない。

(そんなはずない。まさか)

「あー。海野くんは今日はそこの隅で見学していてください。次から実際に
授業をしてもらうからね」
「はい」
先生の指示で、海野という教育実習生は窓際に近づいてきた。
そして。そこにあった折りたたみ椅子に座る。

あたしの席の、まん前に・・・。


いつものように先生の授業が始まったけれど、あたしは緊張してそれどころ
ではなかった。

見られている。
明らかに見られている。

教育実習生は明らかにあたしを見ていた。
自意識過剰かとも思ってみたけれど、疑いようもなくじりじりとした視線を感じる。

あたしは体中の力をふりしぼって、一瞬顔をあげた。

(ハールーン!)

アラブ系じゃない、まぎれもなく日本人なんだけど、でもハールーンにすごく
似ている。
何よりも、目が。

あたしと目が合った瞬間、教育実習生はすごく不思議な表情をした。
それをなんと表現したらいいのか、あたしにはよくわからないけれど、
たぶん、思いがけない人に出会ったときの顔だった・・・と思う。


そのあとはもう、一度も顔をあげることができなかった。


授業後、その教育実習生は案の定生徒に囲まれていた。
「ねー、先生から見て、うちのクラスってどう?」
よくある質問。

教育実習生・・・海野春樹はちょっと考えてから言った。
「ジャニ」

心臓がどきんとする。

そんなあたしに一瞥をくれて、海野春樹は笑いながら言った。
「ジャニーズ系の男子が多いよな。いまどきの高校生はすごいなぁ」

「えー。じゃあ女子はー?」
そういいながら取り囲もうとする女の子たちを軽くかわしながら、
海野春樹は教室の外に出て行った。

あたしは何かに憑かれたように彼を追いかけていた。
「海野先生」
呼んでしまってから後悔する。
どうしよう。

だけど、あわてる内心とはうらはらに、口から勝手に言葉が飛び出した。
「先生、質問なんですけど」
「おう、なんだ?」

「ハールーン=アッラシードって知ってますか?」

仮にも教師をつかまえて、なんてひどい質問だろう。
あたしははずかしさで顔がほてるのを感じた。

だが、そんなあたしの言葉に、海野春樹の顔つきが変わった。
ひどく驚いた顔。
でも、それも一瞬だった。

海野春樹は、挑むように言った。
「ああ。よく知ってるよ」

そして、
「一応世界史専攻の人間に向かって、ひどいな」
といって、にっこりと笑った。




(Bへ続く)