続・深読みパラレル菅流日記


        

 
白鳥異伝のその後を、妄想して書いたものです。
「深読み菅流日記」を未読の方は、
先にそちらをお読みいただくことをおすすめします。 
※深読み菅流日記よりもパラレル度が高いです。




1、遠子の日記・再び
at 2003 12/08 03:36 編集

「小倶那ったら、これだけ大きくなったというのに、まだ蛇が恐いの?」
遠子が大声でいうと、菅流はおかしそうに笑った。
「必ず七掬に伝えるよ」
菅流はそういうと、馬を進ませた。

「さよなら、菅流」
「さよなら」
遠子は小倶那や武彦たちと菅流を見送った。


だが、ほんの少し馬を進ませただけで、菅流はぴたりと止まった。

「どうしたのかしら?止まってしまったわ」
「本当だ」
「何か忘れたのかもしれませんな」
遠子たちがそうささやきあっていると、ふいに菅流は馬を飛び降りた。
そして、驚いている遠子のところまで駆けてきた。

「なに?どうしたの?」
遠子がたずねると、菅流は何かふっきれたような笑顔で微笑んだ。
「やめた。まだ伊豆母には帰らない」
「ええっ」
遠子は驚きのあまり、また大声を出してしまった。
「だって、だって」
二の句が継げない遠子の肩を抱いて、菅流は言った。
「考えたんだ。じっちゃんはしぶといからあと1年や2年は待っていてくれる。でも、
今帰ってしまったら、おれは遠子を失う」
「えっと、それはどういう」
困惑する遠子に菅流は言った。
「単純な話さ。おれは遠子がほしいんだ」

そして、菅流は固まってしまった遠子を放置して、小倶那に向かって言った。
「そういうわけで、正々堂々と戦うから、よろしく頼むな、恋敵殿」
「あ、えっと、よろしく」
のんきに微笑む小倶那を、遠子は叱り飛ばした。
「何を笑っているのよ。菅流が言っている意味、わかっている?恋敵よ、恋敵」
「あ・・・」
ようやく意味を理解したらしい小倶那は顔色を変えた。

「悪いけど、わたしは小倶那が好きなの」
「知っている。でも、試してもみずにあきらめるのはおれの性にあわないんだ」
菅流は悪びれずにそういうと、笑った。
「なんてったって、遠子は豊葦原一のいい女だからな」

遠子は恥ずかしさと怒りで顔に血が上るのを感じた。
「菅流ったら、よくはずかしげもなくそんな台詞が言えるわね、こんなまっぴるまから」
「小倶那は夜しか言わないのかい」
菅流の戯言に、遠子はさらにかっとした。
「そういう話ではないでしょう!」

真っ赤になった遠子の横をすり抜け、菅流は武彦に近づいた。
武彦は菅流を頼りにしているので、なんだかんだいってもうれしいらしかった。
「そういうことなら、菅流殿のためにひとつ部屋を作らせましょう」

菅流が戻ってくることは、もう確定したようだった・・・。




 



2、遠子の日記・文句
at 2003 12/09 03:33 編集

「だいたいね、あなた、象子はどうしたのよ」

遠子はやたらとまとわりついてくる菅流を払いのけながら尋ねた。
「あなたは象子が好きなのだとばかり思っていたわ」
「それは、遠子が勝手に思い込んだんだろう。めんどうだから話を合わせておいたんだ。
でも、ものわかりのいいふりはもうやめだ」
そう言って、菅流は長身の体を傾け、遠子の顔をのぞきこんで笑った。

「でも、でも、象子のこと、あんなにべっぴんだべっぴんだとほめていたじゃないの。
わたしより象子の方が美人だわ」
すると、菅流はにやりと笑った。
「男がみんな美人にしか惚れないのなら、世間に夫婦があふれているわけがないだろう?」
「どうせわたしは美人じゃないわよ」
遠子がむっとすると、菅流はなだめるように遠子の頭をなでた。
「自分で言っておいて怒るなよ、そうはいってないだろう。ただ、惚れることと美人か
どうかはそれほど関係がないということさ」

遠子はなんだか気恥ずかしくなって、それを隠すために怒った顔をした。
菅流から口説かれる日がこようとは夢にも思っていなかったのだ。
「もう知らない、菅流なんて」
遠子は菅流の手を振り切って駆け出した。

そして、自分が好きなのは小倶那なのだからと、心の中で何度も繰り返した。

 



3、小倶那の日記・共有
at 2003 12/14 21:22 編集

小倶那はだれがどうみても悲壮としかいいようのない顔つきで歩いていた。

菅流が戻ってきて、やっぱり遠子がほしいと言い出したのだ。

正直、小倶那もそうでないかと思ってはいたのだ。
そういうことににぶい遠子はまったく気づいていないようだったが、小倶那にはわかった。
遠子を見る菅流の目が、自分と同じだと。

愛しいものを見る目だった。

だから、さんざん嫉妬して、遠子にぶたれたこともあった。

菅流は、小倶那の目から見ても、魅力的な青年だった。

整った顔立ち。
その顔を明るく彩る、色素の薄い柔らかそうな髪の毛。
誰をも惹きつける笑顔。
みなを微笑ませる話術。
誰もがうらやむ長身。
細身に見える割に意外とある腕力。
自分のように型にはまった武術ではない、柔軟な戦い方。

どこをとっても自分がかなうところはないと思われた。

小倶那は地の底に沈み込みそうな気持ちで大きなため息をついた。


「なにため息なんてついているんだ」
小倶那の肩に手を回しながら、そう声をかけてきたのは、菅流だった。
間近で見ると、菅流の端正な顔立ちがますます良いものに見えた。
彼の目は明るい茶色に澄んでいて、小倶那は自分の真っ黒な髪と目を微かに疎んだ。

「おぬしのことを考えていた」
「おれのことだって?」
菅流はうれしそうに笑った。
「なんだ、遠子をおれに譲ってくれる気にでもなったか」
「そうは言っていない」
小倶那がぶすっとして言うと、菅流は小倶那にますます寄りかかってきた。
そして、小倶那の耳元でささやいた。

「そんなおっかない顔するなって。おれは何もお前から遠子を奪い取りたいわけじゃ
ないんだ。ただ、遠子を失いたくない」
「それを言うなら、ぼくもそうだ」
小倶那が断言すると、菅流は笑った。
「なら、ものは相談なんだが」
「なんだ」
「遠子は二人のものってことにしないか?」
「意味が分からない」
小倶那が眉をしかめると、菅流は小倶那の肩をぽんぽんとたたいた。
「いや、だからさ、おれはおまえのことも気に入っているし、二人はお似合いだと
思っているんだよ。でも、遠子がほしい。だから、共有しないかという・・・」
「断る!!」

菅流の言葉の意味を理解して、小倶那は力いっぱい言い放った。

「しかたない。それならかっさらうしかないな」
「おぬしには遠子は渡さない」
「それは遠子が決めることだ」
菅流はにっこり笑った。
「おれはおまえのことも気に入っているんだ。遠子を手に入れるともれなくおまえが
ついてくるというのでも大歓迎なんだが」
「断る!」
小倶那はまた言い放った。
でも、心の奥底で、遠子を奪われるよりはずっとましなのかもしれないとも思っていた。
小倶那とて、菅流が嫌いなわけではないのだ。
むしろ、菅流は小倶那にとって唯一の男友達ともいえた。
だが、菅流の申し出を受けるわけにはいかなかった。

「ま、急には無理か。考えておいてくれ」
菅流は微笑んでそう言うと、武彦たちが酒を飲んでいる輪の中に戻って行った。

小倶那は混乱する頭を抱えた・・・。 



4、遠子の日記・頭痛
at 2003 12/22 02:18 編集

遠子はいそいそと小倶那の部屋へ向かった。

あたりはもう暗く、火の番をしている者以外はみな眠りについたようだ。

小倶那が生還してから、なんとなく遠子は小倶那の部屋を訪ねることを遠慮していたの
だったが、今夜はそんなことを言ってはいられなかった。
菅流があんなことを言い出したからには。

今まで遠慮していたのは、菅流のせいかもしれなかった。

小倶那が死んでから、毎晩うなされて泣く遠子のために、彼は毎晩横についていてくれた
のだった。
それを、小倶那が戻ってきたからといって小倶那の部屋に毎晩入り浸るというのはなんだか
きまりが悪かったのだ。

だが、菅流が小倶那に恋敵宣言をしたからには、もう遠慮などしている場合ではない。

(小倶那と話し合わなくてはいけないわ)

遠子は足を速めた。


だが、小倶那の部屋に飛び込んだ遠子は、驚いて声も出なくなってしまった。
小倶那の部屋では、小倶那と菅流が仲良く座っていたのだ。
その横には、二組の寝床もあった。
一組は明らかに菅流のものだと、上掛けの布でわかった。

「あ、遠子」
小倶那は、無邪気に遠子に笑いかけた。
「どうしたんだ、こんな夜中に」
菅流もにやにやして言った。

「どうして菅流がここにいるの」
遠子はなんとかそれだけ言葉をしぼりだした。

「おれが頼んだんだ。あいにく他の部屋はすべてうまっていてね」
「それならわたしの部屋を使っていいわ。わたしは小倶那に話があるの。二人きりに
してちょうだい」
「いやだね」
菅流はにべもなく答えた。
「なんのためにここにいると思う」
「知らないわよ」
「おまえたちを二人きりにさせないためにきまっているだろう」
菅流の言葉に、遠子は憤慨した。
「ひどいわ。そんなのってない」
「なんとでもいってくれ」
遠子は小倶那を振り返った。
「小倶那もなんとか言ってやってよ」
「うん・・・でも」
小倶那は口ごもった。
「なによ、はっきり言いなさいよ」
「ここで寝させないなら遠子の部屋に夜這いすると言うから、それよりはましだと
思ったんだ」

遠子は絶句した。
菅流も菅流だが、小倶那も小倶那だ。

「遠子も一緒に寝ようぜ。いま寝床を用意してやるから」
菅流は嫌味なほどにっこり微笑むと、自分の寝床と小倶那の寝床の間に、てきぱきと
遠子の寝床を用意した。

遠子は小倶那を見たが、小倶那は困った風に笑うだけだった。

(なんだかんだ言って、小倶那は菅流が好きなのよ。一緒にいられるのがうれしいんだわ)

遠子はあまりうれしくない考えに思い至ってがっくりした。

そうなると、今夜はもうこの状況に甘んじるか自室へ戻るしか選択肢はないのだった。

遠子は不機嫌な顔のまま、寝床にもぐりこんだ。
いまさら、ひとりぼっちの自室へ戻るのはいやだった。

菅流はそんな遠子を満足そうに見下ろしていた。

やがて、明かりが吹き消された。

右に小倶那。
左に菅流。

遠子は頭痛がするこめかみを押さえながら、眠ろうと努めた・・・。


 
















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