■ 十六夜菅流日記 ■
■第一夜
遠子が泣き声が聴こえる。
押し殺すように、でもこらえきれない声がうめき声のように遠子の部屋からもれていた。
「まいったな」
菅流はため息をついた。
遠子をなぐさめてやりたいのはやまやまだったが、今日、小倶那を失ったばかりの遠子に
とって、自分がなぐさめになるとは思えなかった。
菅流はしばらくそのままじっとしていたが、やがて我慢できずに立ち上がった。
菅流の性分が、泣いている遠子を放っておくことを許さなかった。
「入るぜ」
一声かけてから遠子の部屋に入ると、遠子は地面にうつぶせになっていた。
ときおり、すすり泣きの声がもれる。
菅流がのぞきこむと、遠子の顔は涙と土でぐちゃぐちゃになっていた。
「そんなところにいたら体が冷えちまうぞ。泣くのならここで泣け」
菅流はもってきた上掛けの布を広げて見せた。
だが、遠子は立ち上がる気力もないようだった。
菅流は遠子を布でくるみ、自分のあぐらの膝の上に抱えあげた。
遠子は何も言わず、静かに涙を流し続けていた。
菅流は、冷え切った遠子の体を両腕で抱えて温めてやった。
いま、菅流にできることはそれだけだった。
続く
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