銀のガチョウ 4

旅支度も整い、ついにメアリとその求婚者たち一行は城を出発した。

馬車で行けるところまでは馬車で行く。
道がなくなったところに盗賊ロジャーの手下が待っているらしいので、そこからは手下の
誘導に従って、ロジャーの根城へ行くという行程だ。


一日馬車で走って、今日はここまでと天幕を張り野営の準備をする。

メアリはしゃがみこんで火をおこしていた。
火のおこし方は、子どものころにアベルに教わった。
何事にも熱中しやすいメアリは、一時期は火おこしにはまってしまい、城内で火をおこそうと
してよくエドワードに止められたものだ。

セシルは火を起こすメアリの後ろに座りこみ、メアリの背に額をつけ、背後からメアリを
抱きしめた。
「ちょっと、セシル、じゃま」
メアリはセシルを払いのけようとしたが、セシルは離れようとしない。
それどころか、ますますメアリに密着してくる。
メアリは怒ろうかと思ったが、セシルに甘えるような目でじっと見つめられて根負けした。
「ほんとにしょうがない子ね。もういいわ、勝手にしなさい」
メアリはそう言うと、再び火おこしに没頭した。

ようやく火おこしに成功し、焚き火の準備ができたメアリは、エドワードが集めてきた
薪を火にくべた。
「ふう、焚き火っていつ見てもいいわよね。なんか、血湧き肉踊るって感じ?」
「わかるよ、メアリ」
セシルの適当な相槌を無視して、メアリは焚き火の向こう側に目を向けた。

そこでは、御者たちと協力して天幕を張っているアベルの姿があった。
てきぱきと天幕を張るアベルの敏捷な動きは、見ていて目に心地良い。

「ほんといいわよね、アベルの体って」
メアリのひとり言を、アンナがあわてて止めに入る。
「姫様、その発言は誤解を招くかと・・・」
「誤解ってなによ。だって、アベルの体、すごくきれいなんだもん。
男らしいのにしなやかな背中、細い腰、きれいな筋肉がついた手足。
ほんとにいいと思うの」
「姫様・・・」
アンナの制止を振り切って、メアリは立ち上がり、アベルに駆け寄った。
そして、アベルの二の腕を揉んだ。
「ほら、筋肉がしなやかで柔らかいの。肌もすべすべで、気持ちいいんだ。
アンナも触ってみたら?」

「ひ、ひめさま・・・」
「メアリ、お肌すべすべならおれだって負けないぜ!」
「うーん、セシルもおしいんだけどね・・・でも筋肉が足りないからねえ」
メアリはそういうと、大仰にため息をついて見せた。



     *


深夜、みなが寝静まったころ、火の番をしていたアベルが目を覚ますと、エドワードが一人、
焚き火の側に座っていた。

「薪ならいま足したところだ」
エドワードがつぶやいた。
ずっと起きていたようだ。
アベルは驚いてエドワードに尋ねた。
「あなたは眠らないのか?」
エドワードはうっすらと微笑んだ。
「私は護衛官だ。姫がこんな野外で寝ているときに、のうのうと寝ていることはできない。
明日、馬車の中ででも仮眠をとるさ」
「そうか」

しばし沈黙が落ちた。
次に口を開いたのはエドワードだった。
「やはり、アベル殿が一番姫に好かれているのだな」
「そうですか?」
「ああ。姫はアベル殿の体にずいぶん見入っておられた」
「からだ・・・」
アベルは苦笑した。
「メアリはいつもああいうことを言っていますよ。ぼくが好きと言うよりも、ぼくの体が
好きなだけです・・・というと変な意味に聞こえますが」
苦笑するアベルに、エドワードはつぶやいた。
「それだけとは思えないが」
「そうでしょうか」
「セシル殿も、姫にまとわりついても払いのけられなかった。やはり、私が一番不利なようだな」

真剣に悩んでいるらしいエドワードの様子に、アベルは笑った。
「なにを言っているんですか。エドワード殿だってすごかったじゃないですか。ほら、大きな
水溜りのあったところで。エドワード殿がメアリに手を差し出したら、メアリが心得たように
エドワード殿の首に手をまわして。そしたらエドワード殿がメアリをお姫様抱っこして水溜りを
軽々と飛び越えた」

エドワードは眉をしかめた。
「それがなにか?護衛官としていつもやっていることだが」
真顔で言うエドワードに、アベルは苦笑した。
「普通やらないでしょう。護衛官が姫君をお姫様抱っこなんて。しかも、メアリもあなたを信頼
しきった感じだったし。なんだか、入り込めない信頼感を感じて、正直ちょっと嫉妬した」
「そうか」
エドワードはうなずいた。
「でも、姫が好きなのは貴殿だろうと思う」

再び沈黙が落ち、あとは無言で火の番をするうちに夜が明けた。


「おはよう。あら、二人で火の番をしていたのね。話ははずんだ?」
不思議そうにそう言うメアリに、アベルとエドワードは苦笑した。



(続く)




   *       *

<コメント>

はい、相変わらずの駄文です。

3人の求婚者とメアリの関係をもっと書きたいなと思い、書いてみました。

うーん、やっぱりアベルとエドワードばかりになってしまう。
セシルももっと活躍させてあげないと・・・。

駄文を読んでくださってありがとうございました!

2007.01.24





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