西の善き魔女 ユーシス&アデイル
2005クリスマス記念 (みずなさんへ♪) 
                    イメージソング「白いギフト」池田綾子(アルバムLunarsoup収録)


白いギフト ☆ アデイル編


思うように筆が進まず、アデイルは顔を上げて窓の外を見た。
止んでいたはずの雪がまた降り出している。
アデイルは小さく伸びをしてから、羽ペンを置いた。

ヴィンセントにせかされて、赤毛の貴公子の物語の続きを
書いているのだが、なんだかうまく書けない。
ここのところ忙しく、ひさしく小説を書いていなかったせいかもしれない。

アデイルは立ち上がり、テラスに続くガラスの扉を開けた。
ちょうど今書いているシーンは冬。
外に出て登場人物と同じ気温を感じれば、何かひらめくかもしれない。

テラスに降り積もった雪を踏みしめながら、アデイルは外に出た。
張りつめるような冷気が肌を襲う。

アデイルは空を見上げた。
厚く重なる灰色の雲から落ちてくる、真っ白な雪。
じっと見ていると不思議になるくらい、後から後から降ってくる。

「きゃ」
目に雪の粒が入り、アデイルはあわててうつむいた。
手で目を拭っていると、背後から聞きなれた声がした。

「アデイル」

ああ、怒っているのだわ、とアデイルは思った。
アデイルの義理の兄であり、一の騎士でもある彼は、アデイルが体に
毒になることをすると心配して怒るのだ。
過保護な部分もあるものの、そのように心配されるのは、アデイルに
とってうれしいことでもあった。

「お兄様」
アデイルが振り返ると同時に、ユーシスは手に持っていた厚手の
ロングコートをアデイルの肩にかけた。
「そんな薄着で外に出るなんて、一体何をしているんだ」
アデイルは返答に詰まり、とっさににっこり微笑んだ。
まさか、創作のネタ探しに、とは言えるはずもない。
「雪を見たかったのですわ。積もっている雪ではなく、空から降る雪を」
アデイルが答えると、ユーシスは苦笑した。
「きみがここに来てから、毎年そのセリフを聞いている気がするな」
「お兄様こそ」
アデイルも微笑んだ。
「わたくしが寒いところで立っているとすぐに上着を持って飛んできて
くださるでしょう。もう昔から、ずっとそうですわ」
「きみが無茶をするからだ」
ユーシスは少し眉をしかめて、アデイルのほほに手をあてた。
アデイルの冷え切ったほほに、ユーシスの手はひどく熱く感じられた。

「こんなに冷えて」
「お兄様が温かいのですわ。ほら」
そう言って、自分のほほに触れる兄の手元を指差す。
「わたくしの手に降った雪はなかなか溶けないのに、お兄様の手に
降った雪はすぐ溶けてしまうでしょう」
「つまり、きみが冷え切っているということだろう」
ユーシスは口をへの字にしてそういうと、両腕でアデイルを包み込んだ。
「わたしが温かいというのなら、わたしの熱を奪ってくれてかまわない」
「お兄様」
アデイルは唇をとがらせた。
「ありがたいですけれど、わたくしが、そのような自己犠牲的なお兄様は
好きでないのをご存知でしょう」
ユーシスは真顔になって言った。
「なんと言われても、どんなにきみが嫌がっても、きみを守るために
わたしはきみの傍にいるんだ。
きみを守るためなら、自分を犠牲にすることも厭わない。
わたしにはそれしかできないんだ。
きみが不愉快だというのなら、きみの騎士として失格なのかもしれないが・・・」
ユーシスは眉をしかめてうつむいた。
(お兄様のばか)
アデイルが言っているのは騎士としてどうとか、そういうことではないのに。
「わたくしもお兄様には傍にいていただきたいのです。それは本当に。
ただ、お兄様が・・・」
言いかけたものの、自分の気持ちをどう表現したらいいのかわからず、
アデイルは口ごもった。

アデイルはこの義理の兄が好きだった。
しかし、ユーシスの方はアデイルのことをどう思っているのかよくわからない。
だから今でも自分の気持ちを言えずにいるわけなのだったが。

「ただわたしが・・・なんだい?」
アデイルの言葉の続きをユーシスが催促した。
アデイルは無言でユーシスの瞳を見つめた。
ユーシスもアデイルの瞳を見つめ返す。
無言の見つめ合いがしばらく続いたが、先に目をそらしたのはユーシスだった。

ユーシスは腕を解くと、アデイルに背を向けてガラスの扉を開けた。
「さあ、もう中に入らないと。本当に風邪をひいてしまう」

アデイルはそんな兄に少しむっとした。
むっとすると同時に、兄の背中に衝動的に飛びついた。
自分でも訳がわからなかったが、気にせずユーシスの背中に顔を押し当てる。
「アデイル?」
困惑したユーシスの声が上から降ってくる。

自分の気持ちを言ってしまおうか、とアデイルは考えた。
だが、すぐに打ち消す。
言ってもユーシスを困らせるだけかもしれない。
ユーシスが自分のことを女の子として大事に思ってくれているのではないかと
思える瞬間もあるにはあるのだが、どちらにしろ、アデイルの気持ちを知れば、
この不器用な兄が悩みぬくことは明らかだった。


「・・・お兄様は温かいですわね」
アデイルがようやくそれだけの言葉をしぼりだすと、ユーシスが声を出さずに
笑ったのが体の振動でわかった。
「きみの方が温かい」
「うそ」
アデイルは顔をあげた。
背中越しに振り返るユーシスと目が合った。
「うそじゃない」
ユーシスはアデイルを部屋の中に入れると、扉を閉じた。
部屋の暖かい空気がアデイルを包み込む。
「ほら、暖炉の前に座って、体を温めなくては」

ユーシスに背を押されるようにして、アデイルは暖炉の前に座り込んだ。
ユーシスもアデイルのすぐ隣に座り込むと、ハンカチでアデイルの雪にぬれた
髪をぬぐい始めた。
「先ほどのお話ですけれど」
ユーシスのされるがままに髪を拭いてもらいながら、アデイルは言った。
「わたくしは温かくないですわよ?
血の巡りが悪いのか、夏でも手足が冷えますの」
「そうじゃないよ」
ユーシスは手を休めずに言った。
「わたしは幼いときから他人と肌が触れ合うようなことがあまりなくてね。
父も母もああいう人だし。
跡取り息子だけに、使用人も遠慮していたんだろうね」
ユーシスは熱心にアデイルの髪の水滴を拭いながら言った。
「そんなとき、この屋敷にきみがやってきた。きみはもう覚えていないかも
しれないが、小さなきみはわたしを見てにこにこして、それからわたしを
抱きしめてくれたんだ。ぎゅっとね。
そして、小さな手で私のほほに触れてくれた」
ユーシスはアデイルを見て柔らかく微笑んだ。
「きみと出会って、わたしは人が温かいということを知ったんだ」

アデイルは目を見開いた。
兄がそんなことを覚えていたとは。
「わたくしも覚えていますわ」
アデイルはうなずいた。
「そのとき、わたくしとても不安でした。いったいどこへ連れてこられて
しまったのかと。でも・・・」
アデイルは微笑んだ。
「わたくしわかりましたの。お兄様に会ってすぐに。ああこの人だと。
なぜだかそう直感しましたの。
だからわたくし、かけっこもスキンシップも苦手でしたけれど、
勇気を振り絞ってお兄様に駆け寄って、
力いっぱい抱きついたのですわ」

アデイルはユーシスを見た。
ユーシスも何かいいたげにアデイルを見つめている。
お互いに何か言いたいのは明らかなのだが、どちらも何も言わないのだ。
(お兄様のことは責められない。わたくしだって言わないのは同じだもの)
ユーシスはアデイルの髪を拭くのをやめ、アデイルを抱きしめた。
アデイルは静かに目を閉じた。

もう少しこのままでもいいのかもしれない。
いつかは言わねばならない日が必ずくるのだから・・・。

(終)



おまけ 白いギフト ☆ ユーシス編


夜、眠る前に、アデイルのご機嫌伺いをするのはユーシスの
毎日の習慣だった。

ユーシスはアデイルの部屋の前までくると、ドアをノックした。
だが、返事がない。
「アデイル?」

嫌な予感がして、ユーシスは返事を待たずに扉を開けた。

目の前に広がる光景はユーシスの予想通りのものだった。
雪の降るテラスに、アデイルが部屋着のまま立っている。

ユーシスはコート掛けからアデイルのコートを一着取り出すと、
テラスへ飛び出した。
アデイルの名前を呼ぶと、予想していたとでもいうような笑顔で
アデイルが振り返る。

そんなアデイルにコートを着せてやりながら、ユーシスは
ため息をついた。
どうしてアデイルはこんなに我が身を顧みないのだろう。
だから、周りにいる者が手を貸さずにはいられなく
なるのだ。

もっとも、ユーシスの場合は、アデイルに構ってしまうのは
それだけの理由ではなかった。
もちろん、義理の妹だということも、女王候補でもあることも、
理由の一つではある。
だが、一番の理由は、ユーシスにとってアデイルが世界で一番
大事な女の子であるということだった。
自分の気持ちに気がついたのは最近だが、思いそのものは
ずっと前からあった気がする。
それこそ、アデイルと出会ったときから、ずっと。

アデイルがロウランド家にやってきたのは、彼女が5歳のとき
だっただろうか。
小さいけれど、光り輝くようなお姫様。それがアデイルだった。
星女神様がくれた宝物だと思った。
自分が彼女を守る騎士になるのだと知ってからは、武術の
稽古にも熱が入った。

アデイルと出会ってから、ユーシスにとって世界で一番大切な
女の子はいつもアデイルだった。
いままでずっと、そしてこれからも、アデイル以上に大切になる
女の子なんていない。


背中に熱を感じて振り返ると、アデイルがユーシスの背中に
顔を押し当てていた。
鼓動が高まるのをアデイルに気付かれないよう、ユーシスは
小さく息を吐いた。
冷えているはずのアデイルの体が、なぜだか温かく感じられた。
特に押し付けられているアデイルの顔は、熱くさえ感じる。

アデイルを部屋の中に入れてやり、暖炉の前で彼女の髪を
拭いてやった。
アデイルはおとなしく、されるがままになっている。
ユーシスはアデイルの髪を拭きながら、アデイルと出会った頃の
思い出を語った。
「きみと出会って、わたしは人が温かいということを知ったんだ」
ユーシスがそういうと、アデイルは意外だといわんばかりの顔をした。
そして、小さくうなずいた。
「わたくしも覚えていますわ。わたくしとても不安でした。いったい
どこへ連れてこられてしまったのかと。でも・・・」
アデイルはそこで言葉を切り、ユーシスに向かって微笑んで言った。
「わたくしわかりましたの。お兄様に会ってすぐに。ああこの人だと。
なぜだかそう直感しましたの。
だからわたくし、かけっこもスキンシップも苦手でしたけれど、
勇気を振り絞ってお兄様に駆け寄って、
力いっぱい抱きついたのですわ」

アデイルが自分のことをそんな風に思ってくれていたとは驚きだった。
うれしかった。
アデイルもユーシスを大事に思ってくれていたのだ。

ユーシスは思わず自分の気持ちを伝えてしまいたくなった。
だが、もし自分の勘違いだったら、妹に無用の悩みの種を与える
だけになってしまう。
ユーシスは無言でアデイルを見つめた。
アデイルもユーシスを見つめている。
ユーシスは我慢できず、アデイルを抱き寄せた。
それでも、言葉を口に出すことだけはなんとか我慢した。
自分はアデイルの騎士なのだから。
アデイルを守ることが役目なのだから。

だが、もし他の男がアデイルをさらっていくようなことになったら。
そう考えるだけで頭が真っ白になる。
そんなことになるくらいなら、その前に、自分の気持ちを伝えなくては
ならない。

だが、今はまだ・・・。
(なんという意気地なしだ、わたしは)
ユーシスはそう自嘲しながら、アデイルを抱く腕に力をこめた。


(終)




<コメント>

はい、いつもお世話になっているみずなさんへのクリスマス
プレゼント(もしくはお歳暮・笑)に、ユーアデを書いてみました。

西魔女は書きなれていないので、世界観とか設定とか、何か
おかしかったら遠慮なくつっこんでやってください・・・すみません。

ただ、書きなれていないはずなのに、思ったよりも書きやすかったです。
以前、みずなさんといづるさんがあたそのとユーアデの共通点を
語っていらっしゃましたが、本当に何か近いものがある気がします。

お兄様は菅流とも共通点がありますしねv(赤毛同盟立ち上げなきゃ♪)

今回書かせていただいたことで、ユーアデが以前よりさらに好きに
なった気がします。

今回の創作のきっかけとなりました、池田綾子さんの「白いギフト」も
素敵な曲ですので、機会がありましたらぜひ聴いてみてください。
2ndアルバム「Lunarsoupルナースープ」に収録されています。

ぴっころの駄文を読んでいただき、ありがとうございました!!

2005/12/24

           







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