就任



遠子は深いため息をついた。
今日は生徒会役員の当選発表の日なのだ。

遠子の通う勾玉学園の生徒会選挙の方式はいたって簡単だった。
候補者が選挙演説・応援演説をし、その後の投票で、票が多いものから順に、会長、副会長、総務、会計、書記となる。
学年も性別もなにも関係がなかった。
選挙演説で目立てるかどうかがすべてだった。

何を隠そう、遠子も立候補した。
幼なじみの小倶那が立候補すると言ったからだ。
(小倶那ったら、仕事を引き受けすぎてまたぶったおれるに決まっているもの)

中学の生徒会の仕事で小倶那が一度倒れたことを遠子は忘れていなかった。
小倶那は自分の体を顧みず仕事を優先するのだ。
だから、傍で見張っていようと、そう思ったのだった。

小倶那は部活の宮戸先輩に応援演説をしてもらっていたが、二人とも非常に地味な演説だった。
とてもいいことを言っていたし、リーダーシップも十分あった。
だが。

(笑いは・・・・なかったのよね)
遠子はため息をついた。

それに比べて、あの人。
菅流・・・先輩という人。
彼の選挙演説の間中、生徒たちは大爆笑だった。応援演説の今盾先輩という人の話もおもしろかった。
しかも、菅流先輩は、おもしろいだけでなく、きちんとしたことも話しており、生徒たちの注目を集めていた。

いやな予感がしていた。


   *


生徒会役員の発表は、生徒会室の前の掲示板に貼ってあった。

一目見て、遠子は目をむいた。
「わたしが副会長????」

もともと、末席の書記にでももぐりこめればいいかと、その程度の気持ちだったのに。
小倶那はどうなっただろうと、あわてて目を走らせると、小倶那は総務だった。
得票数が遠子の次だったようだ。
そして、驚いたことに、会計には角鹿が選ばれていた。
角鹿は遠子の隣の家に住む、二つ年上の兄のような存在だった。
書記は扶鍬先輩という人らしい。

そして、肝心の会長は・・・・・。


「へえ、あんたが副会長か」
声と同時に、遠子は後ろから誰かに抱きしめられた。
頭ひとつ上から声が降ってくる。
背が高い・・・男だ。

「放して!」
遠子が叫んで身をよじると、その男・・・菅流先輩は苦笑した。
「ずいぶん元気な子だな」
そして、にっこりと微笑んで言った。
「これから一年間、よろしくな」
そういって、今度は正面から遠子を抱きしめた。
「放せって言ってんでしょ!」
遠子の肘鉄が菅流に(もう先輩なんて呼んでやらないと遠子は決めた)炸裂した。

(続)



(イラスト・ 玖珂 鼎さん)




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