ここでは、いただきもののイラストや許可をいただいたイラストに 管理人が駄文をつけさせていただく という形の企画をさせていただきたいと思います♪
★第1回 ひこさん いで湯 ★第2回 フユさん 目覚め ★第3回 ぬえさん 桜吹雪 ★第4回 かまやんさん たくらみ ★第5回 みずなさん そのとき ★第6回 玖珂鼎さん 旅立ち 第6回・旅立ち ........................illustration by 玖珂鼎さんvv (薄紅天女ラスト直後) 「鈴。すごくきれいだよ。しかし、その格好は・・・なあ・・・」 藤太は苑上を見て苦笑した。 こんな緊急時でも女性へのほめ言葉を忘れないのが、藤太らしいといえばそうなのかもしれなかった。 「たしかに・・・」 広梨も困ったように目を細めた。 阿高の腕に抱えられた苑上は、きらびやかな内親王以外の何者にも見えないと彼らは言った。 苑上も自分の着物を見下ろし、藤太がそういうのも無理はないのかもしれないと思った。 兄とは言え、皇太子に会うときにはいつもより上等な衣装を身に着けなくてはならなかったのだ。 だが、苑上は微笑んで、大事に抱えてきた包みを開いた。 それは、苑上が鈴鹿丸になっていたときに着ていた着物だった。 田村麻呂の家の者がきれいに洗って返してくれたのだが、苑上がさんざん転んで泥だらけにしたせいで、その着物はもう貴族のものとは見えないほどみすぼらしくなってしまっていた。 だが、その着物を苑上は大切にとっておいたのだ。 それは、苑上が鈴鹿丸になったことの証。 そして、なにより、阿高や藤太たちと一緒に過ごした大切な思い出があったから。 阿高たちと別れた後、悲しいときもさびしいときも、この着物を見れば心がなぐさめられた。 思い出があればきっと生きていけると、そう信じていた。 でも、阿高は迎えにきてくれた。 「この着物をもう一度着る日がくるなんて、夢にも思わなかったのに」 苑上はそう言って微笑んだ。 そして、さっさと木陰に入ると、鈴鹿丸の着物に着替えた。 単の着物はそのままなので、苑上はたいしてはずかしいとも思わなかったが、阿高たちを驚かせるには十分だったらしい。苑上が着替え終えて、髪を結いながら木陰から出ると、赤い顔をして3人が待っていた。 「よし、行くか」 まっさきに阿高が笑顔になった。 阿高が苑上に手を差し出す。 「ええ」 その手を、苑上は迷いなくとった。 この人についていく。 その思いに揺らぎはなかった。 「藤太、広。何をぼんやりしているんだ。行くぞ」 もう駆け出そうとしていた阿高が、ついてこない仲間二人に気づき、後ろを振り返った。 その顔は満面の笑みに満ちている。 つられて苑上も振り返った。 そんな苑上たちを不思議そうに見ていた藤太と広梨が、顔を見合わせて笑った。 「おれ、なんだか、鈴がいるのが当たり前の気がしてきたよ」 「やっぱり阿高は鈴と一緒にいるのがいい」 藤太と広梨はおかしそうに笑った。 そして、手を取り合って走る阿高と苑上を追って、勢いよく駆け出した。               (終) ・・・・・・・・・・・・・・・・ 今、TOPに飾らせていただいている鼎さんのイラストを見ていたら、どうしても書きたくなってしまいました。 ひさびさのアタソノです。 鼎さん、イメージのわく素敵なイラストを、本当にありがとうございました! 第5回・そのとき ........................illustration by みずなさんvv 1、苑上 「苑上」 阿高と一緒に駆け去ろうとしていた苑上に、建物の陰から声をかけるものがいた。 思わぬところで名を呼ばれて、苑上はぴくりと体をふるわせた。 だが、すぐにその声の持ち主に思い当たった。 「兄上?」 苑上が呼ぶと、柱のかげから安殿皇子が姿を現した。 「一目でも会えてよかった」 微笑む兄に、苑上は混乱した。 あの事件以後も、皇太子である安殿皇子にはなかなか会うことができず、苑上が最後に謁見を願い出たのは五日ほど前のことだった。 「兄上、どうしてここに?」 「賀美野が教えてくれた」 そう言うと、安殿皇子はふいに沈鬱な表情になった。 「やはり行ってしまうのだね、彼と一緒に」 苑上はうなずき、当然反対されるものと思い、身をすくめた。 だが安殿皇子は寂しげに微笑んだだけだった。 「苑上はいつも思ったとおりに行動できるのだね。そんな苑上を、わたしはいつもうらやましいと思っていた」 「兄上」 苑上は驚いて顔をあげた。 兄が自分をうらやましがることがあるなどと、今まで一度も考えたことがなかった。 「皇に苑上がいてよかった。阿高を連れてきてくれたのは苑上だ。そなたが都と皇と・・・わたしを救ってくれた」 「そんな、わたくしは何も・・・」 自分は何もしていないと、そう言おうとした苑上を、安殿皇子はそっと抱きしめた。 「あ、兄上?」 戸惑う苑上に、安殿皇子は涙交じりの声で言った。 「今、そなたを行かせてしまったら、きっとわたしは後悔するのだろう。だが、最近の苑上は苑上でなかった。苑上には彼が必要なのだね」 「・・・ええ」 苑上はうなずいて、兄の顔を見上げた。 身を切られるかのような切なげな表情をした安殿皇子は、苑上の頭をなでながら言った。 「それなら、行かせないわけにはいかないね。わたしは、苑上にはいつまでも苑上らしく自由でいてほしいのだ。幸せになるのだよ」 優しい言葉をかけられて、苑上は思わず兄の体にしがみついた。 苑上のことを思ってくれる兄と弟。 彼らとはおそらくもう一生会えないのだ。 2、安殿 安殿皇子は自分の懐に顔をうずめて泣きじゃくる苑上の背をなでた。 ふと顔をあげると、阿高がなんとも言えない表情で安殿皇子と苑上を見ていた。
安殿皇子は苦笑し、苑上の体をわが身から離した。 「もう行きなさい。内密に人払いはしておいたが、だれかに見つかってしまわないともかぎらないからね」 そして、阿高に向かって、金のつまった小さな布袋を差し出した。 「急なことで少ししか用意できなかったが、旅の足しにしてください。苑上を頼みます」 阿高は力強くうなずいた。 そして、兄から布袋を受け取った苑上を抱き上げた。 「兄上・・・お元気で」 阿高の腕の中から苑上はそう挨拶したが、阿高がくるりと身を翻して駆け出したので、もう安殿皇子の顔は見えなかった。 3、阿高 藤太と広梨との待ち合わせ場所のすぐ近くの木陰で、阿高はふいに足をとめた。 「どうしたの、阿高」 苑上が阿高の腕の中から尋ねた。 「わたくしが重いから疲れてしまったのね。わたくしも自分で走ります」 「違う。そうじゃない」 阿高は首を振った。 苑上の体は軽く、たいした負担ではなかった。 ただ、阿高の胸になにかもやもやと巣食うものがあった。 考えなくても理由はすぐに思い当たった。 安殿と苑上の抱擁だ。 考えてみれば、阿高はまだ一度も苑上を抱きしめたことがないのだった。 そう思うと、いてもたってもいられなくて、阿高は苑上を人目につかない木陰におろした。 「阿高ったら。やっぱり重かったのでしょう」 そう言って微笑む苑上を、阿高は思い切り抱きしめた。 そして、苑上の長く下ろしたつややかな髪に顔をうずめた。 苑上の柔らかな衣は心地よく、息を吸い込むと苑上からは嗅いだこともないようなよい匂いがした。 阿高の体を、今まで知らなかった何かが突き動かした。 気づくと、阿高は苑上に口づけていた。 苑上は驚いたようだったが、おそるおそる阿高の首に手をまわしてくれた。 それに勇気づけられて、阿高は思う存分苑上に口づけた。 そして、ずいぶんたってから、やっとのことで唇を離すといった。 「会いたかったんだ」 思いが体からあふれだしそうな気がするのに、うまく言葉にならない。 阿高は同じ言葉を繰り返した。 「鈴に・・・鈴に会いたくてたまらなかったんだ」 苑上は何度もうなずいて、うっすらと目に涙をにじませて言った。 「わたくしも、とても会いたかったの、あなたに・・・」 どちらからともなく、もう一度口づけをしてから、阿高は笑って苑上を抱き上げた。 「今ごろきっと藤太たちがやきもきしてるな。急ぐからしっかりつかまってろよ」 「ええ」 苑上は微笑んで、阿高の首に腕をまわした。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ はい、スケブに描いていただいたみずなさんの「すね阿高」ですvv (日記でもさんざん騒いでしまいましたが♪) あまりにツボな表情の阿高なので、たまらず勝手に駄文をつけさせていただきました〜!! 『これは絶対、安殿と仲良くする苑上を見てむぅ。となった阿高だわ〜vv』と勝手に妄想♪ いえね、最近ゲットしたOさんやMさんのご本を見ていて思ったのですが、阿高ってすっごく鈴に会いたかったはずだから、きっと多少暴走したんじゃないかと(笑) すいません、あいかわらずの妄想っ子で(笑) みずなさん、こんなわたしに素敵なイラストを本当にありがとうございました! 第4回・たくらみ ........................illustration by かまやんさんvv 今日はどうしようか。 一日の仕事の終わりにそんなことを考えて、阿高は一人笑みをもらした。 「なんだよ、阿高。にやにやして」 藤太のからかいも軽く笑顔で受け流し、阿高は屋形へと足を速めた。 「阿高!お帰りなさい!」 藤太より一足早く帰宅した阿高に気づき、苑上が飛び出してきた。 阿高は無表情をつくろうと、小さくうなずいた。 「ああ」 阿高のぶっきらぼうな態度に、苑上は首をかしげた。 「どうしたの、阿高」 「別に」 阿高は鈴から手ぬぐいを受け取ると、顔や足を洗いに小川へと向かった。 「待って、阿高」 阿高は、苑上が自分の後ろを小走りでついてくるのを確認して、心の中でほくそえんだ。 しかし、顔はあくまで無表情を崩さない。 上着を脱ぎ、無言で体を洗う阿高に、苑上はますます不安になったようだった。 「ねえ、どうしたの?どうして藤太と一緒じゃないの?けんかしたの?」 「別に」 質問攻めの苑上の方をちらりとも見ないで、阿高は低く言った。 「もしかして、体の具合が悪いの?どこか痛いの?」 「別に」 「じゃあ、おなかがすいたとか?」 「別に」 苑上が眉をひそめた。 これは尋常ではないと思ったらしかった。 阿高は苑上の顔を見て思わず表情を緩ませそうになったが、無表情を維持することに意識を集中した。 「もしかして、わたくしのことを何か怒っているの?」 「さあね」 阿高が否定しなかったので、苑上は途端に不安そうな表情になる。 「わたくしのせいなの?わたくし、何かした?」 「さあ」 阿高は川から上がると、てぬぐいで体を拭き、上着を羽織った。 そして、苑上に目もくれずに、屋形へ向かって歩き出す。 「阿高」 苑上がまた阿高の後を追ってきた。 阿高は振り返らず、まっすぐ屋形へ戻った。 土間から上へ上がるときに、ちらりと苑上の顔を盗み見る。 苑上は不安で泣きそうな顔をしていた。 途端に、阿高は苑上を抱きしめたい衝動にかられた。 苑上の表情に、胸が激しく痛んだ。 (あと少し・・・) 阿高はぷいっと顔をそむけて、自分の部屋へ向かった。 相変わらず苑上も後をついてくる。 どこまでもついてくる苑上はまるで子犬のようだった。 だが、そんな苑上がついに行動に出た。 苑上は扉を開けて部屋に入ってしまおうとする阿高の着物をつかんだ。 そして必死に言った。 「ねえ、阿高。何か言って」 目に涙をためて自分を見上げる苑上に、阿高は胸をつかれた。 部屋に入るまではと思っていた阿高だったが、苑上の表情に、自分の我慢が限界に達したことを知った。 振り返りざまに、阿高は苑上を強く抱きしめた。 「ごめん」 「え?」 混乱する苑上に阿高は微笑みかけた。 阿高の笑顔を見て、苑上はほっとしたように床にへたりこんだ。 阿高もしゃがみこみ、苑上の頭をなでてやった。 「ごめんな」 「うん・・・」 阿高は苑上の目尻に溜まった涙をぬぐった。
苑上は少し微笑んで、阿高に尋ねた。 「一体何があったの?」 「別に」 今度はたっぷりの笑みを含ませて阿高は言った。 「ただ、なんとなく鈴の泣き顔が見たくなっただけだよ」 「それが理由?」 「うん」 阿高の返答に、苑上はふくれた。 「阿高ったら、ひどいわ」 「ごめん。でも、そんなにひどかったか?」 「ええ」 苑上が口をとがらせると、阿高は意味ありげに笑った。 「でもこれが俺の普通なんだよ。他の女の子にはいつもこんな態度だ。鈴が特別扱いなんだよ。それはわかってるよな?」 「それは・・・でも」 苑上は納得がいかないという風につぶやいた。 「でも、わたくしの泣き顔を見るためなんて。やっぱりひどいわ。からかうなんて」 「からかってなんていないさ」 阿高はきっぱりと首を振った。 「じゃあどうしてこんなことをするの」 「それは・・・」 尋ねられたので、阿高は正直に答えた。 「だって、そのほうが燃えるから」 「え?え?ちょ、ちょっと待って」 そうして、阿高は泡を食って目を白黒させている苑上を抱き上げ、部屋の奥へと消えたのだった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ うぎゃーー!! す、すみません! 遅くなった上に、かまやんさんの素敵なイラストにおそろしい駄文をーー!(汗) 今回の目標は、いつも優しい阿高ばっかり書いているので、たまには意地悪な阿高を書いてみようかと・・・(それが失敗の原因) 初めてこのイラストを拝見したのはかまやんさんのサイト「天宮図鑑」で、もううっとりほれぼれでした。 その後、そのイラストをうちの絵板に描いてくださっていることに気づき(遅すぎ…汗)、さらに感激だったのでした♪ かまやんさんのイラスト大好きですvv 本当にありがとうございました!! 第3回・桜吹雪(すずかさんリクエスト) ........................illustration by ぬえさん♪ (腹が空いた・・・) 阿高はひどい空腹感に目を覚ました。 一瞬ここがどこか分からず、目を瞬かせる。 あたりを見回すと、そこは小さな穴ぐらだった。 自分の体に目をやると、着物が焼け焦げてぼろぼろになっている。 それを見てやっと思い出した。 (そうだ、鈴を襲ったあいつを追ってきたんだった・・・) 物の怪には結局逃げられてしまった。 思った以上に手強く、本気でかからなければ倒せなさそうだ。 本気で、我を忘れて命をかける気でなくては無理だと、そう思った。 阿高は小さくため息をついて立ち上がった。 穴ぐらを出て辺りを見はるかすと、少し下ったところに池が見えた。 なんとなしに阿高は池に向かって歩き出した。 歩きながら鈴鹿丸のことを思った。 (鈴は無事だっただろうか・・・) そう思いながら、阿高は顔をあげた。 池の上方の空に、大きな虹がかかっていた。 鈴鹿丸は不思議な少年だった。 気がつくと阿高の隣にいる。いろいろと面倒をみてやらなければならないことも多いが、それが苦にならない。一緒にいるのが自然に感じる。 そんな人間は藤太ぐらいしかいないと思っていたのに。 そう考えながら木立をかきわけた阿高の耳に、聞き慣れた鳴き声が届いた。 「ちびクロ」 阿高が呼ぶと、前方の草むらから子犬が飛び出してきた。 じゃれかかる子犬を抱き上げてやりながら、阿高は微笑んだ。 誰かの気配を感じて、ふと視線をあげると、そこにいたのは鈴鹿丸だった。 驚いたような表情で阿高を見つめている。 泥まみれだが元気そうだ。 阿高はほっとすると同時に、けげんに思った。 なぜちびクロと迎えに来るのが藤太ではないのか。 藤太になにかあったのだろうか。 そんな考えが頭をよぎる。 鈴鹿丸に尋ねると、そうではなく自分が阿高を見つけたかったのだと答えた。 阿高は首をひねったが、鈴鹿丸に物の怪がどうしたのかを尋ねられたので簡単に説明してやった。 いくつかの会話が交わされた後、鈴鹿丸は黙り込んだ。 決意を固めるかのように口を結んでいる。 そして、鈴鹿丸は口を開いた。 「わたくしには、物の怪がなんなのかもうわかっているの」 阿高は驚いて鈴鹿丸を見た。 鈴鹿丸はなおも続けた。 あれは自分の身内の怨霊だと。皇太子を狙い、今度はその弟を襲ったのだと。 わけがわからず、阿高があっけにとられていると、鈴鹿丸は大きく息を吸い込んでから、一息に言った。 「けれども、わたくしは弟の皇子ではないの。そう見せかけていたけれど、本当はその姉なのです」 「姉?」 思わず聞き返したその瞬間、鈴鹿丸の体が、桜吹雪に包まれたように見えた。 阿高の視界すべてが薄紅色の桜吹雪で覆い尽くされた。
阿高はまばたきをした。 次の瞬間、阿高の視界は元に戻っていた。 うっそうと茂った緑の木立に。 桜などどこにもない。そもそも、そんな季節でもない。 (なんだったんだ、今のは) わけがわからないまま、阿高はただただ呆然としていた。 「阿高」 藤太の声で、阿高は我にかえった。 藤太はにやにやしながら阿高の肩に腕をまわした。 「どうした。立ったまま昼寝か?」 阿高の目の前には苑上がいて、とめどなく降ってくる桜の花びらをつかまえようと跳びはねている。 (そうだ、みんなで花見にきたのだった・・・) 「魂を抜かれたような顔をしていたぞ」 藤太の笑いを含んだ声に、苑上がどうかしたのかと振り返った。 そして阿高に目をとめて微笑む。 ああ、そうか、と阿高は思った。 あの瞬間から、自分は苑上に恋をしたのかもしれない、と。 「おいおい。本当に大丈夫か」 にやつく藤太の腕を払って、阿高は言った。 「腹がへった」 「なら、そろそろ千種がこしらえてくれた昼飯を食うか」 千種の名前をわざと強調して藤太が笑う。 「わたくしだって作ったもの」 苑上が口をとがらせた。 そんな苑上をなだめながら、藤太は後ろを振り返る。 「おーい、千種」 千種は桜の樹の根元に座り込み、桜の花びらを糸にとおして花冠を作ろうと奮闘していた。 「千種さーん」 鈴が大事そうにたくさんの花びらを持って千種のところにかけていく。 どうやら、千種の花冠のためにきれいな花びらを集めていたらしかった。 「ほら、行こう。早くしないと鈴に全部食われちまうぞ。また食いすぎで腹をこわさないように見ていてやるんだろう」 そう言って笑う藤太に、阿高は微笑んでうなずいた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ すみませんー(汗) ぬえさんのイラストのイメージですずかさんリクエストのお花見を書いてみましたが・・・ど、どうでしょうか(どきどき) ぬえさんのイラストを見た瞬間、どうしても「姉?」というあのシーンが書きたくなってしまいました。 (あのシーン大好きなのです〜!) すずかさんにリクエストいただいたお花見、アタソノ日記の方でも入れられればまたいれたいと思います! 遅くなってすみません(><) 桜吹雪の中に立つ苑上のイラスト、すごく素敵でした〜vv ぬえさん、本当にありがとうございました!! 第2回・目覚め ........................illustration by フユさんvv 「阿高」 苑上の声が上から降ってきた、と思った。 何事かわからないまま、阿高は眠くて開かない目を無理に開けてみた。 ぼんやりとした視界に、苑上が見えた。 (幻か・・・) 阿高は再び目を閉じた。 苑上がこんなところにいるはずがない。 彼女は都にいるのだから。 一緒に武蔵にこないかと言えないまま、別れてしまった。 それを何度悔いたことだろう。 言えばよかったと。 言えば、もしかしたら苑上は今ごろ自分の側にいたかもしれない。 だが、言えなかった。 彼女は内親王だ。 その身分を捨て、あんなに大切にしている家族と別れることを強いることはできなかったのだ。 だけど、そんな考えは三日も経たないうちに崩れてしまった。 理屈なんて関係なしに、苑上に会いたいと思う。 苑上と話をしたいと思う。 苑上を抱きしめたい・・・と思う。 苑上のことを考えているうちに、いつのまにか阿高は泣いていた。 会いたい。苑上に会いたい。 自分がこんな思いを抱くなんて、少し前までは考えもしなかった。 頭で考えれば無理とわかっているのに。 それでも会いたいのだと心がわめく。 まるでだだっこのようだ。 また、涙が出た。
「阿高。泣いているの?」 また苑上の声が降ってきて、阿高は目を開けた。 涙でゆるんだ目は、今度はしっかりと開いた。 「大丈夫?」 そう言って阿高をのぞきこんできたのは、まぎれもなく苑上だった。 「鈴!おまえ、どうしてここに!」 「え?」 苑上は訳がわからないというように、あいまいに微笑んだ。 阿高ははっとして辺りを見回した。 竹芝の自分の部屋だった。 (伊勢じゃない・・・夢だったのか) 阿高はほっとすると同時に、体の力を抜いた。 いつのまにかずいぶん体が緊張してこわばっていた。 「夢を見ていたの?」 そう問いかける苑上を問答無用で引き寄せ、阿高は苑上に激しくくちづけた。 何度もくちづけを繰り返し、強く抱きしめた。 「あ、阿高?」 阿高のされるがままになっている苑上をもう一度強く抱きしめて、阿高はやっと説明のために口を開いた。 「伊勢の・・・夢を見たんだ」 「伊勢の?」 「ああ、全てが終わったあと・・・藤太が養生している頃だよ。鈴に会えなくて気が狂いそうだった」 阿高は前髪をかきあげた。 「どうして今ごろそんな夢を見たんだろうな・・・」 すると、苑上はちょっと考えてから言った。 「わたくしもときどきあのころのことを思い出すわ。阿高がいなくてとてもつらかった。もう一生会えないのだと思っていたわ。自分の気持ちはお墓まで持っていこうと思っていたの」 そして、柔らかく微笑んだ。 「でも、今は阿高と一緒にいる。いつのまにか当たり前になってしまったけれど、わたくしたちが一緒にいるということはとてもすごいことなのよ。だから、阿高の夢はきっとそのことを思い出させてくれたのではないかしら」 「ああ・・・。そうだな、そうかもしれない」 阿高は笑った。 苑上と話すといつも心が軽くなる。それどころか明るい気持ちにさえなる。 (鈴はおれを幸せにしてくれる・・・) 苑上には人を幸せにする力があると、かつて阿高自身が言った。そして、いま、苑上はその力を阿高のためだけに使ってくれているのだ。 こんな幸せなことがあるだろうかと阿高は思った。 とたんに、苑上が口をとがらせた。 「阿高。いま、心の中で何か考えたでしょう?わたくしにはわかるのだから、教えて」 ちょっとした表情の変化を読まれてしまったらしい。 「言わない」 阿高はにやりと笑った。 そして、意識的に真顔に戻ると、あくびをしながらおもむろに髪をかきあげた。 「ああ、よく寝た」 「ねえ、何を考えたの」 「今日もいい天気だな」 「ねえ、教えて」 「鈴は今日も洗濯か?」 「ねえ」 「そうだ、ひさしぶりに遠乗りにでも行くか」 「・・・本当?」 一瞬、苑上の追及がゆるむ。 「ああ、行こう。今日は馬を貸してもらえる約束なんだ。さて、朝飯朝飯と」 阿高は立ち上がり、まだ座り込んでいる苑上に手を差し出した。 「ほら、鈴も」 「もう阿高ったら」 あくまで言う気のない阿高の様子に、苑上は思い切りふくれてみせる。 そんな苑上をなだめるために、阿高はしゃがみこむと、もう一度彼女にくちづけた・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ はい、すみません(しょぱなからお詫び…涙) パジャマを着ているイラストをいただいて、現代版でも書いてみたのですが、どうにもうまくいかず、時代そのままで書きました(私の文章力不足のせいです、すみません〜!) フユさん、せっかくの素敵イラストにフィットしてない文章で申し訳ないです(汗) フユさんのお描きになった阿高の寝起きな表情には本当にめろめろになりましたvv 阿高の鎖骨ばんざーい!! ああ、何度見てもかっこいいわ〜vv フユさん、本当にありがとうございました!! 第1回・いで湯(温泉) ........................illustration by ひこさんvv 「いで湯に行こうか」 「いで湯?」 苑上は思わず飛び上がり、阿高の袖をつかんだ。 「どうした。いで湯は嫌いか?」 阿高が不安そうな顔で苑上をのぞきこんだ。 苑上はぶんぶんと首を横に振った。 いで湯には、幼い頃に母や榛名と一度行ったことがあり、とても楽しかった記憶がある。 だが、なにより、お湯が使えるのがうれしかった。 都にいたときは、毎日湯浴みをするのが当たり前の生活をしていたが、竹芝ではみな湯浴みなどせず、水浴びだけだったからだ。 一度、少しお湯を使わせてもらったことがあるが、水汲みの苦労とたくさん湯を沸かすために必要な薪の量に驚いた。自分は都で本当に贅沢をしていたのだと改めて思った。 だが、そう思ってもやはり湯につかりたいという思いはあったのだ。 苑上が喜んでいるのをみてとった阿高は目を細めた。 「よかった。ちょっと遠いけど、今日は馬があるからそんなにかからないよ。準備ができたら出発しよう」 「ええ」 苑上はこくんとうなずいた。そして、なにげなく確認のつもりで尋ねた。 「藤太と千種さんも行くのでしょう?」 いつもそうなので、今日も当然そうだと思ったのだ。 だが。 「どうして。あいつらは行かないよ」 阿高は意外そうにそう言った。そして、にっこり笑った。 「おれと鈴だけだ」 苑上は阿高の背にしがみついていた。視線を下に泳がせると、力強く駆ける馬の足とすごい勢いで流れる地面が見えた。 いつもの散策とは違って、今日は早駆けなので苑上は後ろ側だ。 阿高の前傾姿勢にしたがって、苑上も阿高の背にほおをおしつけるようにした。 いつかもこんなことがあった、と苑上は考え、すぐに思い出した。 阿高と初めて出会ったときだ。あのとき彼は黒馬で、自分を乗せて走ってくれた。そして、自分はこんな風に必死にしがみついていたのだった。 だが、今日はあのときと少し違う。 実は、苑上が絶対落ちないようにと、阿高は美郷から子ども用のおぶいひもを借りてきて、苑上をおぶうような形でしっかり結びつけているのだ。 そこまで心配されるのもどうかと思ったが、落ちる心配が減るのは本当だった。 いで湯はとても小さかった。苑上の記憶にあるいで湯はもっと大きかった。 もちろん、大きさは問題ではなかった。大きさは十分といえた。 ただ、苑上が知っているいで湯には、すぐそばに着物を脱いだり休むための建物があるはずだった。 だが、ここにはそんなものはなかった。 当然といえば当然だったが、苑上はひどく狼狽した。 一方、阿高はと言えば、さっさと着物を脱ぎ、てぬぐいを腰に巻いて、気がつけばいで湯につかってしまっていた。 阿高はいで湯のへりの岩にほおづえをつき、苑上を見た。 「どうしたんだ、はいらないのか?」 「わ、わたくしは後で入るから」 苑上は慌ててそう言ったが、阿高は食い下がった。 「せっかく一緒に来たんだから、一緒がいい」 そうは言われても、はいそうですかと着物を脱ぐことはできない。 苑上は困りきってうつむいた。 ちらりと阿高を見ると、阿高はいで湯のまわりに咲いている小さな赤い花を手でもてあそびながら笑っていた。 「なにがおかしいの」 苑上が憤慨すると、阿高はまた笑った。 「どうしてそんなにためらう必要があるんだ。鈴は水浴び用の白の単(ひとえ)を着るのだろう。おれなんて裸なんだからな」 「男と女では違います!」 苑上は語気を強めた。だが、ふと、かつて自分が男の子になりたがっていたことを思い出してなんだかおかしくなってしまった。 必死になって男の子のふりをしていた自分、そして苑上の下手な変装にころりとだまされた阿高。 怒った顔をしようと思うのに、顔が笑ってしまっていた。 「どうした」 ふいに笑い出した苑上に阿高が尋ねた。 「いいえ。ただ、阿高がわたくしのことを男の子だと思っていたこと思い出しただけ」 「あ、あれは・・・」 阿高は慌てたようだった。 「あれは、鈴が男の子の格好をしていたから・・・。もちろん、おれだって女みたいだなとは何度も思ったさ。だけど、都の男の子は女みたいなのかもしれないって思いこんじまったんだ、しかたないだろう」 阿高は、本当は気づいていたとかなんとか、うつむきながらあせって言い訳を続けていた。 苑上はそのすきに、こっそり木陰に滑り込み、単を着こんだ。 そして、小走りでいで湯へ飛び込んだ。 けっこうな水しぶきが上がって、阿高がはっとしたように顔をあげた。 「いつの間に着替えたんだ」 本当に驚いている様子の阿高に、苑上は満足げに笑いかけた。 そして、手で湯をすくって阿高にかけた。 阿高にかかったのはほんの少しの水しぶきだったのに、彼はにやりと笑うと、両手で思い切り湯をすくって苑上にかけた。 ざぶん、という感じで苑上の頭に大量の湯が注がれる。 髪までずぶぬれになって、苑上は少しふくれてみせた。 途端に阿高は反省した顔になって近寄ってきた。 「ごめん、鈴。いやだったのか?」 阿高が近くにきたときを見定めて、苑上はにっと笑みを浮かべた。 「怒ったふりよ」 そう言うが早いが、思い切り阿高に湯をかける。さすがに今度は阿高も頭から湯をかぶるはめになった。 苑上同様にずぶぬれになった阿高は、髪から雫を落としながらすぐにいたずら顔に戻り、応戦してきた。 その後は、ひたすら湯のかけあいになった。 だが、しばらくすると、苑上が疲れたのに気づいて、阿高は湯をかけるのをやめた。苑上はほっとしながらゆっくり湯につかり、阿高に笑いかけた。 「楽しかったわね。暖かくなったら川でみんなでしましょうね」 阿高は、そうだなと笑ってうなずきかけたが、苑上に目をやって渋い顔になった。 「だめだ。川でなんかできるものか」 「どうして。今はまだ水も冷たいけれど、夏になれば大丈夫よ」 「そういう話じゃない」 阿高は苑上の胸元を指差した。 湯でぬれて重くなった単が着崩れて、胸元が少しはだけてしまっていた。 苑上はあわてて胸元をかきあわせた。 「川でなんかやって、若衆や他の奴らに見られたらどうするんだ」 「そうね・・・川ではやめておきます」 苑上が素直に言うと、阿高はにやりと笑った。 「怒ったふりだよ」 阿高は先ほどの仕返しをしたのだ。 「いいよ。鈴がやりたいなら止めない。ただ、男どもを追い払うだけだ」 そして、苑上の着物に手をかけた。 「鈴を見ていいのはおれだけだから」 「え?」 よく聞き取れず、苑上は聞き返した。 だが、その問いはすぐに阿高の唇で封じられてしまったのだった。                                終 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ う、うぎゃ(汗) すみませんすみません! ひこさんの素敵なイラストにこんな駄文をくっつけてしまいました(汗) えっと、内容は隠しにしなくていい程度に抑えさせていただきました! いいですね、温泉。 ずっと行ってないです。 というか、ずっとシャワーのみの生活です(汗) 苑上のお風呂事情は想像で書いたのですが、実際どうだったのでしょう? 竹芝にお風呂はあったのでしょうか? もしあったとしても、そう頻繁にはお風呂には入れないような気がするのですが・・・?すいません、時代考証無視で(汗) そもそも、都でもお風呂はあったのですかね??サウナ??平安時代は体を拭くだけでしたっけ??(適当に言ってます、すいません…汗) 私の文章はどうあれ、ひこさんにすばらしいイラストをいただいて本当にうれしかったです!! 今回いただいたのはキリリク絵だったのですが、「阿高でお願いします!」とだけしか言わなかった私に、こんな素敵な絵を描いてくださいました♪ ひこさん、本当にありがとうございましたvv 次回はフユさんからいただいたすばらしい「寝起き阿高絵」に駄文をくっつけさせていただく予定ですvv



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