■ 白鳥の小部屋 ■
2、小倶那の日記(百襲姫来襲後)
ぼくはひどく落ち込んでいた。
ゆうべ遠子が白いけものに襲われたのだ。母上の化身のあのけものに・・・。
遠子を死なせかけてしまった自分がふがいなかった。
ぼくと違って、菅流は遠子を守ることが出来る。
どうしてあの力がぼくに宿らなかったのだろう、と思った。
ぼくが木の下にしゃがみこんでいると、菅流がやってきた。
今はあんまり彼の顔を見たくなくて、ぼくは深くうつむいた。
すると、菅流はぼくのあごをつかんで持ち上げた。
「口をあけな」
「え?」
ぼくが思わず口をあけると、菅流はぼくの口の中に小さな黒い塊をほおりこんだ。
「甘い・・・」
ぼくが驚いてつぶやくと、菅流は得意そうに言った。
「伊津母の市で手に入れた黒糖だよ。高いんだから、味わえよ」
そして、おかしそうに笑った。
「遠子もな、それを口に入れてやるとどんなに怒っていても機嫌を直すんだ」
菅流はそれだけ言うと、さっさと踵を返した。
「菅流」
ぼくが思わず呼び止めると、菅流は振り向かずに言った。
「小倶那、おまえはもっと素直になれ。自分を押さえ込むな。遠子もそれを望んでいると思うぜ」
彼が行ってしまってから、彼の言ったことの意味を考えた。
ぼくは望み続けてもいいのだろうか。
遠子と一緒にいることを・・・。
口の中に残る甘味が、ぼくの気持ちの後押しをしてくれているように感じた・・・。
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