■ 白鳥の小部屋 ■
1、菅流の日記(矢田以後決戦以前)
「とーおこ♪」
おれは柵に腰かけていた遠子を背中側から抱きしめた。
思ったよりも華奢な肩が、おれの腕の中におさまった。
遠子はかわいい。ほおっておけない。妹がいたらこんな感じだろうか。
「菅流、どうしたの?」
遠子が肩越しに振り返って、おれに微笑んだ。
「いや、べつに」
おれはそう言って、自分の中でもっとも極上と思える笑顔を遠子に返した。
「変な菅流」
遠子はそう言って不思議そうにおれを見たけれど、おれの腕を振り払うことはなかった。
おれはそれをいいことに、そのままの姿勢で遠子と話をした。
象子や豊青姫は元気だろうかとか、今盾たちは何をしているだろうとか、そんな話だ。
話の合間に視線をめぐらせると、案の定いた。小倶那だ。
おれと遠子をじっと見ている。
おれは思わず微笑んでしまい、あわててその笑顔を遠子に向けた。
小倶那はにぶいから、なかなか自分の気持ちに正直にならない。
だから、おれがこうして一肌脱いでやっているわけだけれど。
うん、小倶那の表情からするに、今回のは効いたようだ。
「おれはお前たちを応援してるよ」
特にあの小倶那を・・・。
あいつはもっと自分に正直になるべきだ。
本当に失ってから気づいても遅いのだから。
「何の話?」
遠子がけげんな顔をした。
おれはそんな遠子の頭をぽんぽんとして答えた。
「まあ、気にするな」
おれは遠子から腕をはなして、天幕に向かって歩き出した。
通りすがりに小倶那に向かってにっこりと笑いかけてやった。
彼らが幸せになりますように。
ただ、その前に少し小倶那で遊んでもばちはあたらないだろう・・・。
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