あたその日記



阿高の日記 01 竹芝到着


今日、やっと竹芝に着いた。
なつかしくてたまらなくて、胸がつまった。
おれはずっとここに帰りたかったんだと実感した。

鈴も少し旅疲れがあるようだが、とても喜んでいる。
道中、藤太の傷が痛まないかも心配だったが、ほとんど回復しているようだ。
藤太が元気になってくれて、本当によかった。

おれたちが家に帰ると、美郷姉が飛び出してきて、おれたちを抱きしめて
わんわん泣いていた。
気丈な美郷姉が泣くところなんて見たことがなかったので驚いた。
ひどく心配をかけてしまったことを申し訳なく思った。
それと同時に、竹芝に帰ってきたんだという実感もこみあげてきた。

夕飯の後、親父さまの部屋に藤太と鈴と3人で行って、これまでのことや、勾玉を
手放したこと、そして鈴が皇女であることを話した。
親父さまは驚いたようだったが、予想した以上にあっさりと鈴を受け入れてくれた。
さすがは蝦夷の地でおれを拾ってきた親父さまだと思った。

よかった。
受け入れてもらえると信じてはいたが、ほっとした。
鈴がなんだか不安そうにおれの方を見ていたので、笑って見せたら鈴も安心
したようだった。

話が終わると、藤太はさっそく千種のところに行ってしまった。
今夜は帰らないらしい。

庭におりて、クロとちびクロを会わせてみた。
ちびクロのほうがクロよりでかくなってしまっていて驚いた。

部屋に戻ろうとすると、豊高兄に呼び止められた。
おれと藤太が戻ったというので、わざわざ仕事を抜けてきてくれたそうだが、
「あんなかわいい子を連れて戻るなんて、やってくれるじゃないか阿ー坊」
とにやにやしていたので、一発殴っておいた。

部屋に戻ると、美郷姉と鈴が、布団を敷いていた。
元々おれと藤太の部屋だったところなので、布団は二組あるのだが、それが並べて
敷かれていて、美郷姉いわく、おれと鈴の分だという。

鈴は美郷姉たちの女部屋で眠るものだとばかり思っていたおれは驚いた。

鈴はと言えば、旅の間ずっとおれたちの横で眠っていたので、なんの疑問も感じない
らしい。
おれが困惑していると、美郷姉はおかしそうに笑いながら出て行ってしまった。

おれは頭を抱えた。
鈴は当然ここで寝るものだと思っているようだし、出て行けとも言えないし、どうしたら
いいのだろう。

おれが考えている間に、鈴は自分の布団にもぐりこんでいる。
「おやすみなさい、阿高」
と旅の途中にいつもしていたようにおれに挨拶すると、目を閉じてしまった。

おれは考えるのをやめ、とりあえず寝ることにした。
ものすごく眠かったのだ。

あとのことは、また明日考えようと思う。



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