あたその日記



草十の決め台詞 de 阿高


「決めた?」
笑顔でそう尋ねた阿高の首に、苑上はつま先だって手を回した。

阿高は苑上をぎゅっと力強く抱きしめた。
阿高に抱きしめられると、苑上の心の中で不足していた何かが満たされる
気持ちがした。

(わたくしは、だれかにこうして抱きしめてほしかったのかもしれない。)
そのだれかが、苑上が一緒にいたいと思った阿高なのだから、満たされるのは
当たり前といえば当たり前だった。

満たされるのと同時に、苑上は少し不安になった。
阿高が苑上のことを大事に思ってくれているのは感じられたし、一緒に武蔵へ
行こうという言葉にも嘘偽りはないと思っていたが、阿高が自分のことをどう思って
いるのかがおぼつかなかった。

阿高は動物の子をよく拾ってくると藤太も言っていた。
もしかしたら苑上のことも、ちびクロをもらってくるのと同じくらいに思っているの
かもしれない。

そう考えてしまったら、急に不安が大きくなって、苑上は少しうつむいた。

苑上の顔をのぞきこんだ阿高は、苑上が何かを心配していることに気がついた
らしかった。

「どうした?やっぱり武蔵に行くのは不安か?」
阿高の問いに、苑上は首を振った。

困惑する阿高に、思い切って苑上は言った。
「あの・・・わたくしは阿高が好きだけれど、阿高はわたくしのことをどう思っているの?
もしわたくしの一方的な思いだったら」
だが、苑上はそこまでしか言うことができなかった。
というのは、阿高が苑上に軽いくちづけをしたからだった。

目を白黒させる苑上に向かって、阿高は微笑んだ。
「おれは鈴が好きだよ、自分でもびっくりするが」
「びっくりって、何」
「なんでもいいよ。鈴が好きだ」

驚く苑上を抱きあげた阿高は、今まで苑上が見た中で一番の笑顔で言った。
「続きは後で言うことにするよ。まずは鈴を攫わせてもらうから」


(終)



草十の決め台詞、
「おれは糸世が好きだよ、自分でもびっくりするが」
「なんでもいいよ。糸世が好きだ」
の阿高バージョンでした。



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