あたその日記



阿高の日記 お花見


数日前から鈴がそわそわしているのには気づいていた。

「阿高、お帰りなさい!」
阿高を出迎えた鈴は満面の笑みだった。
「なんだかうれしそうだな」
「ええ、だって桜が咲いたのよ」
鈴はにこにこしてそう言った。

鈴が言う桜がどの木のことかはすぐに思い当たった。
豊高兄が山から持ち帰った小さな山桜の木だ。
庭の片隅に植えられたその木は、鈴の腰ほどの高さしかないのに、しっかり
つぼみをつけていて、鈴はそのつぼみが開くのを毎日楽しみにしていたのだ。

「へえ、咲いたのか、あの桜」
藤太がやってきて、鈴の頭に手を置いた。
「鈴、ずっと楽しみにしていたものな。よかったな」
そういって藤太は笑う。

阿高がさりげなく鈴の腕を引いて自分の腕の中に納めると、藤太は苦笑した。
「なんだよ。またやきもちか?」
「藤太が気軽にさわりすぎるんだ」
「しかたない、竹芝の血だろう」
藤太は反省した様子もなく微笑んだ。
「竹芝の血といえば、豊高兄の方が上だけどな」
「・・・ああ」
「木をかついで泥だらけになって帰ってきたかと思えば、言うセリフが『この桜、
鈴ちゃんに似合うと思ってな。鈴ちゃんが竹芝にきた記念に植えようぜ』だからな。
あそこまでの芸当はさすがのおれにもできないよ。あれこそ竹芝の血というのかな」
藤太はおかしそうに笑った。

藤太が行ってしまったので、阿高は鈴と一緒に、改めてじっくりと小さな桜を眺めた。
「きれいだな」
阿高が言うと、鈴はこくりとうなずいた。
「ええ、本当に。わたくし、桃の花が大好きだったけれど、竹芝に来て桜も大好きに
なったもの」
よほど桜が気に入ったのか、鈴は言いながらも視線は桜から離さない。

阿高は衝動的に鈴の横顔に軽く口づけた。
鈴にこちらを向いてほしかったのかもしれない。

鈴が微笑んで阿高を見た。
「なあに?」

阿高は鈴の頭に手を置いた。
鈴の柔らかい髪の毛を、少しくしゃっと握ってみる。
いつものことなので、鈴は何も言わずににこにこしている。

「おれは鈴が好きだよ」
思いが自然に言葉になる。

「・・・ありがとう」
鈴はうれしそうに微笑んだ。
「わたくしも阿高が大好き」

阿高はうなずき、腕を伸ばして鈴を引き寄せた。
そして鈴をぎゅっと抱きしめた。

人を抱きしめるという行為がこんなに心を満たしてくれるものだということを、
阿高は鈴に出会うまで知らなかった。
もちろん、相手が鈴だから満たされる思いがするのだろうけれど。

「また、花見をしよう。藤太たちも一緒に、みんなで」
「ええ」
鈴が阿高の腕の中でつぶやいた。

腕の中に鈴の温かさを感じながら、阿高は微笑んで目を閉じた。




(終)


          *             *




ぎゃー、あまあまらぶらぶ助けて!(ひさびさで、自分で書きながら動揺しました・・・)

桜が咲いたのを見ていたら、ひさびさにあたそのが書きたくなったので書いてみました。
ずっと前にすずかさんにキリ番リクエストいただいた「お花見」です。
(ひぃ、超遅い&いまさらですいません・汗)

文体は一人称ではなく、阿高視点の三人称です。
駄文です、すみません(汗)
しかも、変に甘くてすみません(汗)
あっまーい・・・みたいな(遠い目)

何の変哲もない、桜が咲いただけのただの日常で、過去のあたその日記でも
こんな日常を書いたかも?と記憶をさぐったくらい本当にただの日常ですが、
私はこういうほんわからぶらぶな日常をおくるあたそのが大好きです♪

読んでいただき、ありがとうございました!
(キリリクくださったすずかさん、ありがとうございました♪)










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